バイクの胸部プロテクター「着けるといいよ」をバイクショップから AJ東京の理事がショップオーナーにひざ詰め行脚
バイクの利用が多い東京では、バイク運転中の死亡事故が自転車より多く発生しています。犠牲者を1人でも減らせる可能性がある対策が、胸部プロテクター着用です。問題はどうやって着用効果を伝えるか。都内バイクショップの経営者団体「AJ東京」が打ち出したひとつの対策が、まずはショップオーナーに着けてもらうこと。赤字運営の中でも独自予算を確保し、死亡事故ゼロに向けてスロットルを開きます。
着用推進に最も効果的なチャンネルは、バイクショップだ
バイク事故で、ライダーへの衝撃を最も効果的に減少させることができるのは、頭部を保護するヘルメットと、その正しい着用です。次に大切なのが、胸部を守るためのプロテクターの着用です。警視庁の集計によると、バイク乗車中の死亡事故で、最も多い損傷部位が頭部、次いで胸部が多く、バイク乗車中の死亡事故全体の約70%を占めています(2018年~2022年)。

ただ、ライダーであれば、こうした知識はだいたい知っています。問題は、いかにこの事実を切実に感じて、プロテクターを着用してもらうか。このための新しいアイデアが続きませんでした。
プロテクターの重要性は、バイク用品店を中心として積極的なPR活動が続けられてきました。そんな中で今回、ひとつの解決策に挑戦するとAJ東京(東京オートバイ協同組合)の中澤吉浩理事長が話します。
「胸部プロテクターの着用率を上げるにはどうしたらいいのか。いろいろ聞いてみると、趣味で大型バイクに乗る人は、プロテクターを着用するケースが多い。用品店でアピールしても来る人は、だいたい趣味でバイクに乗っている人だから、その効果が出ている。では、どういう人に必要かというと、通勤で乗っているような人たち。でも、そういう人はあまり用品店には足を向けなかった」
2023年中の東京都内死亡事故136人中、バイク乗車中は44人でした。歩行中の事故に次ぐ多さで、自転車乗車中より多い結果です。警視庁は、出退勤時に発生している割合が高いと警告しています。中澤理事長が続けます。
「こういう人たちがどこに行くのかというと、それは組合員のバイクショップではないかなと。自分のお店でプロテクターの効果を話したら違うのではないかと。まずは組合の中で議論できるのではないかと考えた」
バイクショップには、定期的なオイル交換や修理にやってくるユーザーがいます。新聞配達などの業務車両のメンテナンスを請け負っているショップもあります。しかし、そこで働く人たちは忙しく、単にプロテクターのダメージ軽減効果を伝えて下さい、と言うだけでは賛同の輪は広がりません。中澤氏は考えました。
「AJ東京は、理事が組合員(バイクショップ)を回る活動を毎年やっている。一方的にメールを出すだけでは情報が行き渡らないので、組合訪問するのです。そこにプロテクターをサンプルとして1個持って行って、効果を感じてもらって、それをお店の人からお客さんに説明してもらおう、という試み。警視庁さんからポスターやチラシを頂けるということなので、一緒に持って行って、もしかしたら、この話を聞いたユーザーの0.1%でも着けてもらえるんじゃないか、という単純な発想だね」
赤字の運営でも予算化 ひざ詰めで話せば共感も広がりやすい
AJ東京は、このプロテクター持参のひざ詰め行脚のために100万円の予算を計上。今期(32期)の決算は赤字でしたが、2月28日の組合総会で承認を得ました。

「今期の赤字は折り込み済みなんです。だからって、そこに100万円上乗せしてもいいのかって話にはなるんだけど。先輩方が30余年やってきてくれたので資産はある。ユーザーと業界のためになるならと応援していただきました」
AJ東京の理事は9人。組合員115社を回りますが、行脚する理事もバイクショップの経営者なので、回り切るまでには1年近くかかります。それでも中澤氏は期待します。
「組合は販売店の集まりなので、ダイレクトにお客さんとつながっている。販売店にとっても、組合は同じ販売店なので、距離が違う。働き掛けもぜんぜん違うんじゃないかな」
2024年、バイクメーカーの団体である日本自動車工業会(JAMA)は、バイク事故時のヘルメット脱落のメカニズムを事故分析機関と研究します。ショップとメーカーが、それぞれ得意分野で安全のタッグを組み、ユーザーの安全意識向上を図ろうとしています。
Writer: 中島みなみ
1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。






