いったいナゼ? マレーシアのバイク乗りはジャケットを“後ろ前”に着る!?【MotoGPの現場から No.1】
MotoGPのパドックで、HJCヘルメットのレーシングサービスを行なう長谷川朝弘さんによる、現場のリアルです。ヘルメットのレーシングサービスやMotoGPのパドック、そして、MotoGPとともに移動する旅での出会いなど、30年以上にわたってMotoGPに関わり続ける長谷川さんの視点でお届けします。
マレーシア人MotoGPライダーの出現で、マレーシアのファンが変わった
みなさん、こんにちは。MotoGPのパドックでHJCのレーシングサービスを担当している、トミーハセガワ(筆者:長谷川朝弘)です。僕は2025年1月下旬から2月上旬まで、マレーシアに滞在していました。というのも、HJCがサポートしているMotoGPライダー、ファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGPチーム)とミゲール・オリベイラ(プリマ・プラマック・ヤマハ・チーム)がシェイクダウンテストから参加していたからです。オリベイラは、2025年からHJCのサポートライダーになりました。

テストは朝10時から夕方6時までなのですが、お昼の1時か2時ごろの1時間半から2時間ほどがお昼休憩です。そのタイミングで、ここ(パドック内に設営されたHJCのレーシングサービスルーム)にライダーが午前中に使ったヘルメットを持ってきて、シールドをきれいにして、新しいティアオフ(ヘルメットのシールドに貼られる使い捨てフィルム。視界をクリアに保つことが目的)をつけます。
ライダーによっては、ウインターテスト用グラフィックのヘルメットで走る人もいます。今年はクアルタラロがそうですね。ちなみに、ブラッド・ビンダー(レッドブルKTMファクトリーレーシング)はテスト用グラフィックはなかったのですが、今季はグラフィック自体が新しくなりました。
セパン・インターナショナル・サーキットは、昨年で25周年だったんですよね。マレーシアでは、マレーシア人ライダーのハフィス・シャーリン(Moto2クラスで3度の表彰台を獲得。MotoGPクラスでも活躍した史上初のマレーシア人MotoGPライダー)が出てきてからすごく盛り上がってきたんです。
それ以前は、お客さんはポツポツといるくらいだったんですが、シャーリンがMoto2に参戦し始めてから、セパンのお客さんが変わりましたね。セパンで上位争いをしたことがあって、母国ライダーの活躍ですから、すごい歓声が上がっていましたよ。そこから、マレーシアのレースファンが増えた気がします。
30年以上気になっていた、マレーシアで見るバイク乗りのジャケットの着方
僕は1992年か1993年あたりからWGP(ロードレース世界選手権)を仕事で回り始めました。じつは、そのころからマレーシアで気になっていたことがあるんです。道を走っている(主にアンダーボーンのような生活の足に使う)バイクに乗っている人たちが、ジャケットを「後ろ前」に着ているんですよ。長袖ジャケットで、後ろはファスナーを開けた状態なんです。

地元の人に「なんで逆に着てるの?」と聞いたら、「暑いし、かといってジャケットを着ないでいると、前側が汚れるじゃん」ということらしいんですよ。「前にチャックがあると暑いじゃないか」と。マレーシアは暑いですからね。暑さとちょっとした雨でも耐えられるように、ということなんだと思います。
30年以上前から、マレーシアではこういうスタイルで走る人がいましたね。サーキット周辺の道ばかりではなく、クアラルンプールの街中にもいます。街中だと特に、排ガスを防ぎたいという意味もあるんでしょう。ただ、こういう「後ろ前ジャケット」はマレーシアでしか見ませんね。暑いところと言うと、ほかにインドネシアやインド、タイも行きますけど、そういう着方をするバイク乗りは見ないです。
(編集部注:マレーシアでは、華僑などの富裕層の人たちの肌が白いため、肌の白さが富裕層の象徴とする意識もあるそうです。あえて長袖を着ているのは、肌をこれ以上焼きたくないという意図もある、と説明する人もいました。様々な理由があって、このような着方が根付いているのだと思われます)
それから、彼らは雨合羽をシートの下に常備しています。マレーシアではいつ降るかわからないスコールがありますからね。スコールが降ると、バイクに乗っている人はみんな、陸橋の下に固まって雨宿りするんです。雨宿りするライダーがあふれちゃうくらいの人数なんですよ。そこで雨合羽を着て、また走っていくんですね。
道を走っているバイクも、アンダーボーンのカブみたいなバイクばかりだったけど、だんだんお金持ちになってきたので、スポーツバイクも多くなってきました。30年前と比べると、裕福になってきていますよね。
物価も上がっていて、先日チャーハンを食べたのですが、30マレーシア・リンギットだったんです。1マレーシア・リンギットが約35円とすると、約1050円です。「餃子の王将」のチャーハンよりも高いんです!
空港のフードコードでも、以前は一皿のメニューを7マレーシア・リンギットで食べられたのが、いまは14マレーシア・リンギットします。コロナ後、物価が上がりましたね。食べ物が倍の値段になりました。
ジャケットを後ろ前に着て走る人はだんだん減ってきている印象なのですが、それもマレーシアの経済成長を象徴しているのかもしれません。バイクを趣味として乗っている人が増えていると思いますし、ちゃんとした装備で走っている人も増えてきました。
それにしても、後ろ前にジャケットを着るというのは面白いですよね。僕からしたら、我慢すればいい話だよなあ、なんて思うけど……。逆に着ようというアイデア、視点が、マレーシアの人は面白いなと思います。
■HJC HELMETS
韓国のヘルメットメーカー「HJC」は、2025年シーズンは3名のMotoGPライダー、ファビオ・クアルタラロ、ブラッド・ビンダー、ミゲール・オリベイラをサポート。彼らが使用するのは市販製品である「RPHA1」(※モデル名は販売国によって異なる)
(まとめ:伊藤英里)
Writer: 長谷川朝弘
2001年からシーズンを通してMotoGPを転々とし、パドックでヘルメットのレーシングサービスに携わる。2016年、HJCのレーシングサービス担当者に。最大限かつ最も重要なサポートとして「視界をクリアに保つこと」をポリシーに、日々試行錯誤を続けている。






