進化を続けるバイクの「ABS」 もはや安全性にとどまらない別次元のテクノロジーに

現在販売されている排気量125cc以上のバイクには、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の装備が義務付けられています。安全に関わる大切な機能ですが、どんな経緯で登場したのでしょうか? また安全性の他にも役立つ機能があるのでしょうか?

鉄道→飛行機→自動車……で、バイクのABSは最後発!?

 2018年10月以降に販売される排気量125cc以上のバイクは、道路運送車両の保安基準によってABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の装備が義務付けられています。「アンチロック」は、すなわちブレーキをかけた際にタイヤがロックするのを防ぐ機能のことです。

世界で初めてバイクにABSを装備したのは、BMW Motorradの「K100」シリーズ。1988年モデルからオプション設定した
世界で初めてバイクにABSを装備したのは、BMW Motorradの「K100」シリーズ。1988年モデルからオプション設定した

「ブレーキをかけた際に車輪をロックさせない装置」という意味では、最初にABSを装備したのは「鉄道」です。

 鉄道の車両は金属製の車輪が金属製のレールの上を走りますが、ブレーキをかけた際に車輪がロックすると、車輪やレールの摩耗が早まったり大きな異音や振動が発生します。

 それを抑制するために、ドイツのロバート・ボッシュ社が1936年に車輪のロックを防ぐ装置を開発しました(当時はABSという名称ではない)。とはいえコレは、バイクのABSとは少々目的が異なる感じがします。

 次に第2次世界大戦後の1947年に、英国のダンロップ社が大型の航空機用のABSを開発します。

 航空機が着陸して減速する際にロックするとタイヤがバースト(破裂)する危険があり、滑走路から逸れてしまったり、横転する大事故につながるからです。

 自動車用のABSも長く研究され、1978年に4輪すべてに作用するABSをメルセデスベンツが採用します。開発したのは、やはりドイツのボッシュ社です。

 そしていよいよバイク用のABSですが、初めて装備したのは1988年のBMW Motorrad「K100」シリーズで、じつにクルマ(4輪)用のABSから10年も経過していました。

 クルマはブレーキでタイヤがロックしても転倒しないし、場合によってはロックした方が制動距離が短い場合もあります。

 ただしロックして滑っている間はハンドル操作が効かないため、衝突する危険があります。そこでクルマのABSは、衝突回避のためにハンドル操作が効くようにタイヤをロックさせないのが目的です。

 対するバイクは、タイヤのロック、とくに前輪がロックすると大抵は即転倒してしまいます。しかもクルマと比べてかなり軽量なので、ロックしないようにブレーキの開放と制動をきめ細かく制御する必要がります。

 また当時のABSは装置として大型だったので、バイクだと搭載するスペース的にも困難でした。緻密な制御とコンパクト化、そしてコストの壁にも阻まれ、バイク用ABSが登場するまで時間がかかったわけです。

 ちなみに、国産バイクで初めてABSを装備したのは、ヤマハ「FJ1200A」(1991年型の国内仕様)です。しかしサイズやコスト面の問題もあり、ABSの装備は時間をかけて大型車から徐々に広がって行ったのが実状です。

安全装備からスポーツ装備へ進化

 ABSは安全装備として非常に有効な装置ですが、「制動距離」に関してはABS装備車よりも、スキルの高いライダーならABS非装備車で上手くブレーキ操作した方が短距離で止まれました。そのためスポーツ度の高いモデルではABS仕様車が好まれない、という時期もありました。

 ところが、2000年代後半頃からスーパースポーツ系のABSで様相が変わってきます。

ホンダのスーパースポーツモデル専用ABS(いわゆるコーナリングABS)のシステム図
ホンダのスーパースポーツモデル専用ABS(いわゆるコーナリングABS)のシステム図

 ホンダが2009年に「CBR1000RR/600RR」に「電子制御式コンバインドABS」を装備しました。このシステムは電子制御化したコンバインド(=前後連動)ブレーキとABSを高い次元で連携させ、ブレーキング時の車体姿勢を安定させることでコーナリング性能を高めました。

 従来のABSは、あくまでタイヤの回転を検知してロックを防ぐものでした。しかし電子制御式コンバインドABSは、ライダーのブレーキレバーやブレーキペダルの操作(ブレーキ液の圧力)を電気信号に変換し、前後タイヤの回転センサーからの情報と合わせてコンバインドABSのECU(コントロールユニット=コンピュータ)による制御で、前後ブレーキのパワーユニットが最適なブレーキ液圧を発生してブレーキを効かせています。

 2010年代には、車体の姿勢や加減速、傾きの動きをリアルタイムで計測するIMU(慣性計測装置)がスーパースポーツ系のモデルに装備され始めます。

 このIMUからの情報を用いることで、コーナリング中のフルバンクした状態でもブレーキが使えるようになりました。これは「レースABS」や「コーナリングABS」と呼ばれ、BMWやドゥカティなどの欧州メーカーを皮切りに、日本メーカーのスーパースポーツモデルも続々と装備しています。

 そしてドゥカティの新型「パニガーレV4 S」(2025年モデル)は「レースeCBS」という最新のブレーキシステムを備えています。

 これはサーキット走行等でコーナーに進入してフロントブレーキを離した後も、リアブレーキを効かせて車体を安定させたり、走行ラインを狙い通りに走るためにプロライダーが使うテクニックを再現できる機能で、なんとフロントブレーキレバーを離した後も自動的に最適な強さでリアブレーキをかけ続けます。

 もはやブレーキングで転倒しないようタイヤをロックさせない従来のABSとは別次元の、スポーツライディングでより速く走るためのスポーツ装備と言えるでしょう。

レーダーとABSが連携してライダーを支援!

 安全性はもちろん、スポーツ性能で大幅に進化したABSですが、ツーリングでの快適性や利便性でも目が離せません。

 最近はスポーツツアラー系などのモデルが「ミリ波レーダー」による前走車に追従するアダプティブクルーズコントロール(ACC)を装備しています。

多彩な電子デバイスでライダーをアシストする、カワサキ「Ninja H2 SX SE」のシステム図。演算能力の高いABSとの連携がACCを実現している
多彩な電子デバイスでライダーをアシストする、カワサキ「Ninja H2 SX SE」のシステム図。演算能力の高いABSとの連携がACCを実現している

 従来のクルーズコントロールはあくまで一定の速度で走るだけでしたが、ACCは前走車との車間距離が詰まったり、自分の前に他車が割り込んできた際には自動的にブレーキが効いて減速しますが、それには最新のABSの制御技術が不可欠です。

 想像して欲しいのですが、自分でブレーキをかけていないのに勝手にブレーキが効いたら、かなり怖さを感じるはずです。それを不安なくスムーズに減速するには、ガクッとブレーキが効かないよう緻密な液圧コントロールや、車体が「前のめり」にならないよう前後ブレーキを上手く連動させる必要があります。

 それが、進化したABS技術があるから可能なワケです。

 また、ヤマハ「トレーサー9GT+」のACCは、前後アシストUBS(ユニファイドブレーキシステム)と電子制御サスペンションを連携することで、前後連動ブレーキで車体姿勢を保つとともに、フロントフォークが沈み込むスピードを制御して、前方に「突んのめる」ような姿勢変化を抑制します。

 バイクの安全性を高めるために装備を義務付けられたABSですが、現在はスポーツ性や利便性を高めるための基幹技術としても大いに活用され、バイクにとってなくてはならない機能と言えます。

 また古くからABS技術を追求してきたドイツのボッシュ社ですが、じつはバイク用の支援技術は日本を拠点に研究・開発が進められています。

 その中ではレーダーやABSを組み合わせた新たな支援システムも続々と開発され、市販バイクへの装備が間近なシステムも数多くあるのです。

【画像】バイクのABSは独自過ぎる!? その進化を辿ってみると……(13枚)

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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