原付スクーターと言えば!? 新時代の火付け役 ホンダ「タクト」は逆襲のステップスルー!!
ホンダは1970年代後半の沸騰するファミリーバイク市場に登場したライバル車の快進撃に対し、1980年にステップスルースクーター「TACT(タクト)」を登場させます。販売合戦がエスカレートする原付スクーターは、大いに盛り上がっていました。
幅広いファッションにフィットする軽快なスタイル
1976年に発売されたホンダの原付バイク「ロードパル」は、手軽に乗れる生活の足として、ファミリーバイク市場を急速に拡大させました。1979年には、この市場は年間200万台という空前の販売台数となり、各メーカーから様々な車種が発売されました。

その中でユーザーの注目を集めたのが、ヤマハのステップスルースクーター「パッソル」でした。ホンダは「ロードパル」のバリエーションや派生モデル6機種で対抗します。販売合戦となる中でヤマハも「パッソーラ」を追加し、原付クラスのシェアトップとなりました。
時代はバイクのニーズを常に変化させています。「スーパーカブ」のように実用性や機能重視の時代もあれば、「ロードパル」が提供した手軽な乗りやすさに加えて、1980年代にはファッショナブルに乗れて自分の個性を演出できる乗りものが好まれる方向へ進んで行きます。
ホンダはそういった時代背景の変化に合わせ、1980年に乗用車感覚の原付スクーター「TACT(タクト)」を発売します。ホンダにとっては初めてのスッテプスルータイプのスクーターでした。
新開発の2ストロークエンジンは外から見えないようにシート下に囲われて配置されています。その囲いの中でエンジンとともに回転するファン(風車)が、冷却用の風をエンジンへと送ります。この強制空冷エンジンは3.2psを発揮します。
エンジンからホンダ独自のベルトによる無段階変速機構「Vマチック」を通して後輪を駆動します。このエンジン関係部品とVマチックはスイングユニットに集約され、つまり後輪も含めて駆動するための機構が全てシート下部のスイングアーム部分に収まっている状態です。
さらにシリンダーは15度後方に傾けられ、キャブレターやエアクリーナーを左側に配置してシート下スペースを広げ、さらにフロントのボトムリンクサスペンション採用によってフロントフードをより前方へ配置できました。
その効果により、両足を揃えて乗せる低いステップボードや、ひざ元にゆとりのある乗車スペースを確保できました。車体はフルカバードで構成され、足元からひざ上まで大型のフロントフードに包まれています。

フロントはボトムリンクサスペンション、リアはオイルダンパーを装備して乗用車感覚の乗り心地を追求しています。エンジン振動を車体に伝えにくいダブルリンク式エンジンマウント構造も、快適な乗り心地に寄与しています。
エンジン始動を助けるCDI無接点点火方式やオートチョーク、オートコックなどの親切設計に加え、燃料計や盗難防止のシートロックとヘルメットホルダーなど、充実装備も魅力でした。
ステップスルースクーターというそれまでに無いフレーム形態でしたが、パイプと鋼板を組み合わせた高剛性で軽量なフレームにより、車重は49kgと取り回しも楽で走りも軽快でした。
グレードはキック始動のみの「タクトDX」と、エンジン始動が簡単なセルモーター付き「タクトDXセル付」の2種類が用意されました。「タクト」は発売後3カ月で販売台数11万台を記録し、翌年には45万台を超える大ヒットモデルとなりました。
その後「タクト」シリーズはシート下にヘルメットを収納できる「タクトフルマーク」や、排ガス対策を施したモデル、4ストロークエンジン化などで時代に対応し、現在でも販売を継続しています(2025年4月)。
ホンダ「タクトDXキック式」(1980年型)の当時の販売価格は10万8000円です。
■ホンダ「TACT」(1980年型)主要諸元
エンジン種類:強制空冷2ストローク単気筒
総排気量:49cc
最高出力:3.2PS/6000rpm
最大トルク:0.44kg-m/4500
全長×全幅×全高:1520×630×960mm
始動方式:キック(セル付きもあり)
燃料タンク容量:3.2L
車両重量:49kg(乾燥)
フレーム形式:低床バックボーン
タイヤサイズ(前後):2.75-10-2PR
【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)
Writer: 柴田直行
カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員









