いまや常識!? 原付スクーターにメットイン その誕生秘話とは? ホンダ「タクト・フルマーク」大ヒットへの道のり
1980年代の原付スクーターは空前の販売台数を記録し、2輪メーカーを支える大きな収益をもたらしました。しかし1987年に施行されるヘルメット着用の義務化が決定し、市場崩壊も懸念される中、救世主となったメットインが登場しました。
シートの下にヘルメットを収納する、現代的原付スクーターの登場
シート下にヘルメットなどを収納できる「メットイン」は、現在ではスクーターに定番の装備となっています。走っている時はカバンなどを入れ、目的地に着いたらヘルメットに入れ替える、たいへん便利な装備です。

雨に濡れることもなく、盗難されにくい効果もあるメットインですが、その大ヒットまでには数年間の助走がありました。
ホンダ発のステップスルースクーター「TACT(タクト)」が発売されたのは1980年のこと。その翌年に「タクト」シリーズの追加車種として「TACT FULLMARK(タクト・フルマーク)」の初期型がラインナップされます。
スリムなデザインの「タクト」に対して、「タクト・フルマーク」は後輪を覆うリアのボディカバーを丸く大型化し、荷物を収納できるキーロック付きのサイドトランクを設けました。サイドトランクはスペースに余裕のある右側のみで「ユーティリティを広げます」と宣伝されました。
激化していた原付スクーター市場の覇権争いもあり、さらに至れり尽くせり的な装備が追加されていきます。デビューからわずか2カ月後には雨水の侵入防止対策を施したインナーボックスをフロントカバー内側に装備した特別カスタム仕様車も追加されました。
1982年は「タクト」シリーズが初のフルモデルチェンジとなり、「タクト・フルマーク」も同時にエッジが効いたシャープなデザインを採用します。
1984年発売の3代目「タクト」シリーズでは一転して、丸みのあるデザインにフルモデルチェンジします。
この頃に他メーカーからシート下にメルメットを収納できるスクーターが発売されましたが、大ヒットには至らず連発される新車の中に埋もれてしまいました。
1986年には前後に大型キャリアなどの装備を充実させた「タクト・フルマークS」が発売されます。このモデルでもサイドトランクとインナーボックスの装備は継続され、スポーツスクーターの誕生と好調なセールスの陰で、「スクーターには収納スペースが必要」という声に「タクト・フルマーク」は応えていきます。
そんな中、年々拡大していた原付市場に水を差す、ヘルメット着用の義務化が1986年から施行されることが決まります。すでにホンダの二輪事業の中でも原付スクーターの収益は大きな割合を占めていました。

現在の感覚では理解し難い話ですが、当時はノーヘルで乗れる手軽さも原付の魅力でした。ヘルメットの着用義務化により、売り上げが落ちることが懸念される一方、ホンダとしては原付ライダーのヘルメット着用率が上がり、安全にバイクやスクーターを楽しんで欲しいという気持ちもあったことでしょう。
「これがシート下にあればヘルメットが入るな」という画期的なアイディアは、座っていた円筒形の金属製ゴミ箱から発想されたと言います。
しかしそう簡単にはいきません。シート下には燃料タンクやバッテリー、オイルタンクなどがギッシリ詰まっていました。開発陣はそういったパーツを1つ1つ移動させてヘルメットが収納できるスペースを確保します。
そして最後にシートを支えるリアフレームを、強化したポリプロピレン製の樹脂ボックスとして、そこにシートを直接取り付けるという新技術を開発します。
ヘルメット着用義務施行から半年が経った1987年1月に、メットインの「タクト・フルマーク」が発売されました。
走りやスタイルは新ベーシックスクーターと呼ぶに相応しい魅力があり、何と言ってもシート下のヘルメット収納が市場の要望とマッチし、年間17万台という大ヒットとなりました。
そして1988年に発売されたホンダのヒット作「Dio(ディオ)」は初期型からメットイン機能を装備しており、また同年のマイナーチェンジで「タクト・フルマーク」の車名はここまでとなり、1989年には「タクト」シリーズが全車メットインへ1本化されます。
その後、スクーターは他メーカーも含め、メットインが常識の装備となっていきます。
ホンダ「タクト・フルマーク」(1987年型)の当時の販売価格は13万9000円です。
■ホンダ「TACT FULLMARK」(1987年型)主要諸元
エンジン種類:強制空冷2ストローク単気筒
総排気量:49cc
最高出力:5.8PS/6500rpm
最大トルク:0.66kg-m/6000rpm
全長×全幅×全高:1655×650×1010mm
始動方式:キック、セル併用
燃料タンク容量:4.6L
車両重量:65kg
フレーム形式:低床バックボーン
タイヤサイズ(前後):3.00-10-4PR
【取材協力】
ホンダコレクションホール(栃木県/モビリティリゾートもてぎ内)
Writer: 柴田直行
カメラマン。80年代のブームに乗じてバイク雑誌業界へ。前半の20年はモトクロス専門誌「ダートクール」を立ち上げアメリカでレースを撮影。後半の20年は多数のバイクメディアでインプレからツーリング、カスタムまでバイクライフ全般を撮影。休日は愛車のホンダ「GB350」でのんびりライディングを楽しむ。日本レース写真家協会会員











