「アンチノーズダイブ機構」はナゼ消えた? ブレーキ時の「前のめり」を制御 レーサーレプリカブームで熱視線!?

フロントブレーキを強くかけた時に起きる「前のめり」を抑制するために、1980年代前半に日本のバイクメーカーはスポーツモデルにこぞって「アンチノーズダイブ機構」を装備しました……が、ほどなく消滅しました。一体ナゼでしょう?

レースシーンで生まれた「アンチノーズダイブ機構」

 フロントブレーキをかけた時に「前のめり」になるのがイヤで、ブレーキ操作に苦手意識を持つライダーは少なくないようです。じつは速さを競うレースの現場でも、ブレーキングで急激に大きく前のめりすると、効率よく曲がるための車体姿勢が崩れたり、前輪の直進性が低下して安定性を失うため「イヤな感じ」以上に深刻な問題です。

ホンダのGP500ワークスマシン「NS500」(1982年)は独自のアンチノーズダイブ機構である「TRAC」を装備していた
ホンダのGP500ワークスマシン「NS500」(1982年)は独自のアンチノーズダイブ機構である「TRAC」を装備していた

 とくに1970年代後半~1980年代のレースシーン、現在のMotoGPの前身とも言えるGP500クラスでは、強力なブレーキングに対応する前輪16インチが採用され始めた時代でもあり、ハードブレーキでの前のめりを抑制する必要がありました。

 そこで登場したのが「アンチノーズダイブ機構」です。

 詳細な構造は割愛しますが、アンチノーズダイブ機構はブレーキシステムの油圧を利用して、強いブレーキ時にはフロントフォークの圧縮減衰を強め、フォークの急激な沈み込みを抑えました。

 スズキは早期からアンチノーズダイブ機構の開発に着手し、1970年代後半のワークスマシンに装備。カワサキもGP500マシンの「KR500」(1980年~)や、世界耐久選手権で闘う「KR1000」にも同様のメカニズムのアンチノーズダイブ機構を装備しました。

 またホンダは「TRAC(トルク・リアクティブ・アンチダイブ・コントロール)」と呼ぶ独自のアンチノーズダイブ機構をワークスマシンの「NS500」に装備。こちらはフロントフォークの圧縮減衰を高めるのに、ブレーキの油圧ではなく、ブレーキ時にブレーキキャリパーがディスクローターの回転に引っ張られるトルクを利用したのが特徴です。

1980年代のバイクがこぞって装備!

 1980年代初頭の日本は空前のバイクブームでした。そこからレーサーレプリカブームになだれ込んでいきます。当時のスポーツバイクは「どれだけレーシングマシンのテクノロジーが盛り込まれているか」が人気を大きく左右し、トップカテゴリーのGP500クラスのマシンに装備されたアンチノーズダイブ機構は、瞬く間に市販バイクにも反映されます。

スズキ「GS650G」が装備した「ANDF(アンチ・ノーズ・ダイブ・フォーク)」
スズキ「GS650G」が装備した「ANDF(アンチ・ノーズ・ダイブ・フォーク)」

 レースシーンで先鞭を切ったスズキは、1981年に「KATANA」シリーズ第1弾の「GS650G」や、同社初の400ccクラスの4気筒エンジンを搭載する「GSX400F」に「ANDF(アンチ・ノーズ・ダイブ・フォーク)」を装備します(同年の輸出モデルの「GSX1100S KATANA」も装備)。

 その後はレーサーレプリカの「RG250Γ」や「GSX-R750」が採用し、1986年には電子式アンチノーズダイブの「NEAS」に進化します。

 ホンダも1981年に、いまだ大人気の「CBX400F」にGPマシンからフィードバックした「TRAC」を装備します。翌1982年には初のV4エンジン搭載の「VF750 SABRE」や「CB750F(FC型)」などにTRACを装備しました。

 カワサキは1984年に「AVDS(オートマチック・バリアブル・ダンピング・システム)」という名称のアンチノーズダイブ機構を「GPz900R」や「KR250」などに採用します。

 どちらかと言うとアンチノーズダイブ機構に消極的とも思えたヤマハも、GPマシンフルレプリカの「RZV500R」(1984年)や、5バルブのジェネシスエンジンで有名な「FZ750」(1985年)にアンチノーズダイブ機構を装備しました。

あっ、という間に姿を消した……

 怒涛の勢いでスポーツバイクが装備したアンチノーズダイブ機構ですが、思いのほか短命で姿を消します(1980年代終盤には装備する車両はほぼゼロ)。ロングセラーのカワサキ「GPZ900R」は1990年(A7型)のマイナーチェンジでAVDSを廃止しました。また幾度か生産休止を繰り返したスズキ「GSX1100S KATANA」も、1994年の再生産(SR型、国内モデル)からANDFは省かれています。

 ハードブレーキ時の前のめりを抑制する画期的なメカニズムだったハズなのに、なぜアンチノーズダイブ機構は無くなってしまったのでしょうか?

 じつは登場当時から、前のめりしない=ブレーキ時にフロントフォークが突っ張るフィーリングがあるとか、その際に路面追従性が損なわれて前輪がロックしやすい、という意見がありました。

 また各メーカーで構造は異なりますが、急激な沈み込みを抑えるためにフロントフォークのダンパー内部に複雑なフォークオイルの流路を設けるところは共通しています。そのためフォークのダンパーオイルが汚れてくるとオイル流路が詰まってトラブルを起こす懸念もあったそうです(レーシングマシンなら頻繁に分解整備するので問題ない)。

 それに当時はフロントフォークそのものの進化スピードも速く、緻密な減衰機構を装備する大径の正立フォークが登場したり、高性能な倒立フォークが現れたのもこの頃です。そのタイミングもあって、アンチノーズダイブ機構は短命に終わったと思われます。

 ちなみに1980年代のバイクは旧車としての人気が高く、今も現役で多くの車両が走っていますが、ネットで検索するとこれらのバイクのアンチノーズダイブ機構をキャンセルするカスタムパーツがたくさん販売されており、ある種の驚きがあります。

 それでは現代のスポーツバイクは、ブレーキをかけた際に前のめりしないかというと、そんなことはありません。しかしフロントフォークは確実に進化・高性能化しているので、ブレーキのかけ方(前後ブレーキの使い方)や、ブレーキ時の身体の支え方などを工夫すれば、強くブレーキをかけても「イヤな前のめり」をかなり抑えることができます。

 その辺りはプロやベテランライダーのライディングテクニック記事や動画を参考にすると良いでしょう。

【画像】懐かしい!? 短命に終わったアンチノーズダイブ機構を装備する当時のバイクを見る(22枚)

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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