正立・倒立だけじゃない!? 色々あるぞ(あったぞ)フロントサスペンション!!
現行バイクのフロントサスペンションは、大抵が「テレスコピック・フォーク」を採用していますが、バイクという乗りものが誕生してから、フロントサスペンションも色々なタイプが登場しています。
現行モデルは「テレスコピック式」が主流
現行のバイクのフロントサスペンション(フロントフォーク)は、重なりあった筒が伸縮する「テレスコピック式フロントフォーク」が主流です。語源は英語の「望遠鏡=テレスコープ」で、形状と構造から名付けられました。

現在の中型クラス以上のスポーツバイクは「倒立式」がメジャーになり、小型車やクラシック系のスタイルのバイクは「正立式」のフロントフォークを採用するパターンが多いのですが、どちらも筒が重なり合うテレスコピックとしての構造は同じです。
ちなみに、テレスコピック式フロントフォークを初めて採用したのは、BMWが1935年に発売した「R 12」で、現在の倒立式に近い構造でした。しかし当時の技術で解決できない問題や重量を軽減するために、その後は正立式フォークが普及しました。
そして1970年代のオフロードレースで倒立式フォークが注目され、オンロードレースでも使われるようになり、量産市販車に初採用したのが、1989年発売のカワサキ「ZXR250/400」でした。
カスタムでお馴染みの「スプリンガー」に歴史アリ
しかしBMWがテレスコピック式フォークを採用する以前にも、異なる構造のフロントサスペンションが存在しました。
まず、バイクが登場した1980年代から後半1900年代初頭は、普通の自転車(いわゆるママチャリ)のようにフロントサスペンションはありませんでした。それがエンジン性能の向上やスピードアップにあわせて、路面からの衝撃を緩和する装置=サスペンションの必要性が生まれました。

そこで1900年代に登場したのが「スプリンガー・フォーク」です(フロントサスペンションとして最初期かは不明)。固定式のフォークの下端に設けたリンクアームに前輪の車軸を固定し、並行する可動フォークとトップブリッジの間にスプリングを配置した構造で、いわゆるリンク式フロントフォークの一種になります。
ハーレーダビッドソンの「モデル9A」(1914年)が装備し、その後もスプリンガー・フォークは進化を続け、ハーレーは1950年代頃まで使用しており、独特なルックスは現在もカスタムパーツとして人気があります。
ちなみに、ホンダはアメリカンスタイルの「スティード」に、スプリンガー・フォークを装備した「STEED VLS」を1998年に発売しています。
BMWは1920年代頃からスプリンガーと近しいリンク式フロントフォークを採用していましたが、スプリングはらせん状に巻いたバネではなく、昔のクルマやトラックのような「板バネ」で、アメリカのインディアンも似た構造のフロントサスペンションを採用していました。
そして1920年代頃にはフレームの前端のステアリングステムの上下に並行リンクを設け、スプリングを並行リンクの対角線に配置した「ガーター・フォーク(ガーダー・フォークとも呼ばれる)」が登場します。見た目の形状から「松の葉」に似ていることから、日本では「松葉フォーク」と呼ばれたりもしました。
こちらはイタリアのモトグッツィ「500GT」(1928年)などや、英国のヴィンセントは1940年代の「ブラックシャドウ」にも採用しています。
また現在はインドのメーカーですが、英国で1901年からバイクを製造したロイヤルエンフィールドは、かなり早期からスプリンガーやガーター・フォークに近しい構造のフロントサスペンションを装備していたようです。
BMWは1935年に世界初のテレスコピック式フロントフォークを生み出しましたが、サイドカーを装着すると旋回時の横方向の荷重(サイドカーはバンクせずに曲がる)に耐えられなかったり、重量増によって制動時のノーズダイブ(前のめり)が大きくなるなど、(当時の)テレスコピック式の弱点が露呈しました。
そこでBMWが考案したのが「アールズ・フォーク」です。現在も(メーカーを問わず)バイクをサイドカーに改装する際は、アールズ・フォークはメジャーな存在と言えます。
世界の「スーパーカブ」が装備した「ボトムリンク」
世界的にはバイクが後発の日本ですが、1958年に、後に世界中で愛用される超画期的なバイクであるホンダ「スーパーカブ(C100)」が登場します。そのフロントには「リーディング式ボトムリンクサスペンション」が装備されていました。

前輪の車軸のリンク部はかつてのスプリンガー・フォークに近いと言えますが、スプリング(ショックユニット)はプレス鋼板で作られたフォーク部分に内蔵され、非常にシンプルで製造コストを抑えることにも成功しています。
このボトムリンク式フォークの「スーパーカブ」は2000年代後半まで採用されたので、乗ったことがある人も多いと思いますが、フロントブレーキをかけるとテレスコピック式のバイクとは反対に、フロントフォークがピョコッ! と持ち上がります。
慣れないと違和感がありますが、「スーパーカブ」が登場した高度成長期が始まる前の日本の道路は、街中でも(東京のような都会でも)未舗装路が多く、デコボコしていました。そんな道を走るにはブレーキをかけた際にノーズダイブ(前のめり)にならないボトムリンク式フォークが適していた……という説もあります。
ちなみに「スーパーカブ50」の「カスタム」というバリエーションには、ピョコッ! と跳ね上がりを抑える「アンチリフト機構」を備えたモデルもありました。
このボトムリンク式は後に登場する多くのスクーターにも採用されます。また「スーパーカブ」や初期のスクーターが採用したボトムリンク式サスペンションは、前輪の車軸をリンクの前方に配置した「リーディング式」ですが、スクーター系は1980年代半ば頃からは車軸をリンクの後方に配置した「トレーリング式」が主流になります。こちらはブレーキ時のノーズダイブと跳ね上がり(リフト)の両方を抑制するための構造です。
その「トレーリング式ボトムリンクサスペンション」の究極形(?)とも言えるのが、ホンダが2004年にアメリカで販売した「ワルキューレ・ルーン」(NRX1800)ではないでしょうか。こちらは「ほかのバイクと全く異なるスタイル」を実現するために、敢えてこの方式のフロントサスペンションを採用したと言われています。
ちなみに現行スクーター(ホンダ含む国内メーカー)はすべてテレスコピック式フォークですが、ホンダの3輪ビジネスバイク「ジャイロX」、および「ジャイロ・キャノピー」だけがボトムリンク式サスペンションを採用しています。しかも「ジャイロX」はリーディング式で、「ジャイロ・キャノピー」はトレーリング式と、異なるタイプなのが面白いトコロです。
革新のフロントサスペンションは、現在も進化中
現行バイクで主流のテレスコピック式フォークは「衝撃吸収」と「操舵」という2つの役割を持っています。これは合理的で優れた構造ですが、ブレーキをかけた際のノーズダイブ(前のめり)や、ハードブレーキに対応する剛性を確保すると重量が増すなどのデメリットもあります。そこで衝撃吸収と操舵の機能を分離するべく開発してきたフロントサスペンションも存在します。
代表的なのは(バイクとしてはかなり希少だが)イタリアのビモータ「TESI(テージ)」の「ハブセンターステアリング」です。

かつてはドゥカティのエンジンを搭載するモデルに採用し、近年はビモータがカワサキ傘下となって第1弾モデル「TESI H2」や、2025年のモーターサイクルショーで展示した「TESI H2 TERA」も「ハブセンターステアリング」を装備しています。
ここでは詳細な仕組みは割愛しますが、後輪のスイングアームと同様のフォークで衝撃を吸収し、操舵機能は名前の通り、前輪の「ハブの中心」で行っています。
またイタリアのスポーツスクーターメーカーの「イタルジェット」は、ビモータとは構造が異なりますが前輪のハブに操舵機構を備え、片持ち式スイングアームにショックユニットを装備する「インディペンデント・ステアリング・システム(I.S.S)」というフロントサスペンションを備えています。
他にも、BMWの「テレレバー・サスペンション(1993年~)」や「デュオレバー・サスペンション(2004年~)」も、衝撃吸収と操舵の機能を分離するコンセプトで開発しています。
またホンダの「ゴールドウイング」は、安定感と軽快感を両立するべく「2輪車用ダブルウィッシュボーンフロントサスペンション」を開発していますが、BMWともに4輪車のサスペンション技術や構造を応用している部分があります。
というワケで、バイクのフロントサスペンションはテレスコピック式がメジャーですが、それ以外にもビモータやBMW、ホンダなど、現在進行形で進化している独自のタイプがあります。これらも機会があったら研究・解説していきたいと思います。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

























