都市伝説?「新品タイヤは滑る! 転ぶ!」 バイクにとっては恐怖でしかない!! その原因とは

タイヤを新品に交換したら「ズルっと滑ってスゴく焦った」、「いきなり滑って転んじゃった(泣)」といった話を耳にします。タイヤは新しいほどグリップするはずですが、本当に滑るのなら何か対策があるのでしょうか。

新品タイヤは滑ります!

 ある程度キャリアの長いライダーなら、「新品タイヤは滑る」とか「タイヤ交換直後に滑って転んだ」という話を耳にしたり、実際に経験していることもあるのではないでしょうか。

 溝が浅くなるほどすり減ったタイヤが滑るのは当然として、多くのライダーは新品タイヤに交換するわけで、それが滑ったら本末転倒です。

 しかし結論から言うと、新品タイヤが滑るのは事実です。理由は色々ありますが、大きくはふたつです。

交換したばかりの新品タイヤは、じつはけっこう滑る
交換したばかりの新品タイヤは、じつはけっこう滑る

離型剤とゴムが活性化していないのが主原因

 新品タイヤが滑る原因は、表面に「離型剤」が残っていることと、ゴムが「活性化していない」ことが挙げられます。

 タイヤの製造過程をザックリ言うと、まずは骨格となるカーカス(ゴムを敷いた布地のようなモノ)を組み立て、そこにベルト(合成繊維やスチールなど)を巻きます。そしてその上に路面と接触するゴムを貼ったうえで、接地面の溝が刻まれた金型に入れて、内側から熱と圧力で押し付けます。

 そして最後に金型から抜くのですが、そのときにスムーズに剥がれるように、金型にはあらかじめ「離型剤」と呼ばれる薬剤を塗っています。この離型剤が出来上がったタイヤの表面に残っているワケです。

新品タイヤの表面には、製造時に金型からはがれやすくする「離型剤」が付着しており、コレが滑る
新品タイヤの表面には、製造時に金型からはがれやすくする「離型剤」が付着しており、コレが滑る

 バイクショップやバイク用品店に置いてある新品タイヤは、接地面が黒光りして見えることがありますが、これは見栄えを良くするためにワックス類を塗っているのではなく、離型剤が残っているからです。触れるとなんとなくツルツルというかヌルヌルする感触があり、これが新品タイヤが滑る主原因と言えます。

 それならタイヤメーカーは離型剤を落としてから出荷すれば良いのに……とも感じますが、そのために強力な洗剤や薬剤を使うとタイヤのゴムを傷めてしまうので、とくに洗浄は行っていません。

 そしてもうひとつの要素である、タイヤのゴムが「活性化していない」ですが、これはゴムを構成する分子や電子の話になります。

 タイヤのゴムにはカーボンブラックやシリカの化合物など様々な物質が使われています。そしてこれらの物質は、バイクのホイールに装着されたタイヤが実際に荷重を受けながら回転してゴムが動くことで、分子間に発生した電子が動いて結合し、粘着力(グリップ力)がグッと高まります。

 ある意味で「タイヤとして機能するスイッチが入った状態」になるわけです。

 逆に言うと、タイヤを製造してからその「スイッチ」が入らなければゴムが活性化しないので、新品未使用ならある程度は長期間保存できます。

 なので、バイクショップなどで新品タイヤを装着した直後はゴムの活性化のスイッチが入っていため粘着力(グリップ力)が弱く、タイヤが滑るのです。

新品タイヤが滑るリスクを避けるには!?

 新品タイヤが滑る理由が解ったところで、対策はどうすればいいのでしょうか?

 まず表面に残った離型剤ですが、これは数百メートルから数キロ走れば、路面との摩擦でどんどん削れ落ちて無くなります。また走行するとタイヤが発熱し、その熱によっても離型剤の成分が抜けていきます。

 ネット上では「タイヤの皮むき」と称して様々な情報が飛んでいます。多いのは「クレンザーで洗浄」といったものがありますが、クレンザーをはじめパーツクリーナーやアセトン系の溶剤を使うと、確かに離型剤は落とせるのですが、同時にゴムの成分を傷めてタイヤが劣化するので、やらない方が良いでしょう。

新品タイヤに交換してショップを出た直後の交差点がもっとも危険!
新品タイヤに交換してショップを出た直後の交差点がもっとも危険!

 ちなみに、レースや本格的なサーキット走行の現場では、溶剤系のケミカルでタイヤ表面を拭くこともありますが、これは劣化する前に「タイヤを使い切る」ため、公道とは使用状況が大きく異なるので安易にマネしない方が良いでしょう。

 そして「ゴムの活性化」は、普通に走るだけでOKですが、ある意味で「冬場のタイヤが冷えた状態」と同じで、急加速や急ブレーキなど「急」な操作は控えましょう。

 そして新品タイヤが滑るタイミングは、タイヤを交換してバイクショップや用品店を出た「直後の交差点」がもっとも危険です。いきなり深くバンクして交差点を曲がる人はいないと思いますが、いつもの調子でクルッと曲がろうとして、ズルっと滑ってそのまま転倒するパターンはけっこう多いと言えます。横断歩道のペイントが滑りやすいのも理由のひとつです。

 最初の交差点では「普通」に走らず、かなり慎重に……と言うよりタイヤ交換してショップを出たら、とにかく交差点などで右左折せずに、1kmくらいは真っすぐに走るのがオススメです。その間に離型剤が落ちてゴムの活性化も始まるからです。そしてその後は「急」な操作を控えながら普通に(もちろん安全に留意して)乗れば良いのです。

 バイク用タイヤを製造する国産メーカーのホームページには、新しいタイヤに交換した後は100kmくらい注意して走行するよう表記されています。「100km」と聞くと長く感じますが、「ツーリング1回分くらい」と考えたらそれほどでもないので、滑ってドキッとしたり無用な転倒を避けるためにも、タイヤ交換後は慎重に走りましょう。

タイヤの「ヒゲ」の正式名称は「スピュー」。新品タイヤの滑りには関係ない
タイヤの「ヒゲ」の正式名称は「スピュー」。新品タイヤの滑りには関係ない

 最後にオマケで、新品タイヤの「ヒゲ」の話。タイヤの銘柄にもよりますが、新品タイヤの表面を見ると、1~2cmほどのヒゲが無数に生えていることがあります。これは正式名称を「スピュー」と呼び、タイヤを製造する際に金型とゴムの間の空気を抜くためにできたものです。

 前出した「タイヤの皮むき」を気にするライダーにとっては、このヒゲも気になる存在かもしれませんが、スピューは新品タイヤが滑る原因には関係なく、グリップ力や乗り味にも影響しません。走っていれば自然に磨滅して無くなるモノなので、あえて切り取る必要もありません。

【画像】新品タイヤに交換したら滑る!! 悲惨な思いをしないための対策を画像で見る(8枚)

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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