カワサキばかりナゼ? 「ラムエア加圧」でパワーアップ 他の市販バイクでは装備が少ない理由とは

カワサキのスーパースポーツ系モデルのスペック表を見ると、最高出力の欄に「ラムエア加圧時」という表記があり、パワーが増しています。すべてのバイクに装備されているワケではないのはナゼなのでしょうか。

混合ガスを「押し込む」のが目的

 カワサキのスーパースポーツ系モデルのスペック表を見ると、最高出力の欄に「ラムエア加圧時」という表記があり、パワーが増しています。

「ラムエア加圧」の元となる「RAM」は、英語の動詞では「激しくぶつかる」や「詰め込む」のような意味があります。そして「ラム圧力(ram pressure)」は、「動体が流体(気体など)の中を運動するときに、流体との衝突によって受ける圧力。動圧とも呼ぶ」のような定義になります。

 なんだか難しそうですが、すごくザックリ言えば、走るバイク(物体)が気体(走行風)から受ける圧力を利用してパワーを得るのが「ラムエア加圧」のことです。

カワサキ「ZZ-R1100」(1990年/C型)の透視図。アッパーカウル前端に設けたダクトから、燃料タンク前方のエアクリーナーボックスにダイレクトに吸気する「ラムエア加圧」を採用
カワサキ「ZZ-R1100」(1990年/C型)の透視図。アッパーカウル前端に設けたダクトから、燃料タンク前方のエアクリーナーボックスにダイレクトに吸気する「ラムエア加圧」を採用

 バイクのエンジンは、ピストンがシリンダーの中で下がる時に生じる負圧でガソリンと空気の混合ガスを吸い込む自然吸気が一般的です。しかし何らかの方法で混合ガスをエンジンに「押し込む」ことができれば、同じ排気量でもより大きなパワーを発揮できます。

 そこで有効なのが「ターボチャージャー」や「スーパーチャージャー」ですが、ラムエア加圧もそのひとつです。

 そしてラムエア加圧という用語を一躍有名にしたのが、カワサキが1990年に発売した「ZZR-1100」です。最高速度300km/hオーバーの公道最速マシンとして知られますが、カウリングの先端に空いた吸気口がラムエア加圧の証でもありました。ちなみに最高出力は147ps(仕向け地によって異なる)です。

 市販バイクで最初にラムエア加圧を採用したのは、1989年に発売された「ZXR250」でした。カウリングから燃料タンクに伸びるホースが「いかにも」なイメージですが、これはエンジンの冷却を促進するための機構で、ラムエア加圧はアンダーカウルのダクトからエアクリーナーボックスに導かれていました。

 そのためかラムエア加圧は「ZZ-R1100」のヘッドライト下のダクトで有名になり、モデルチェンジした1993年(D型)ではダクトが2つになって、よりラムエア加圧の効果を高めました。

 その後もカワサキは最高出力や最高速度に長けたフラッグシップ系やスーパースポーツ系に、積極的にラムエア加圧システムを装備しました。現在も「Ninja ZX-10R」をはじめ、「ZX-6R」や「ZX-4R」、「ZX-25R」もラムエア加圧機構を備えています。

多くのメーカーのスーパースポーツ車が採用

 そもそもラムエア加圧はロードレースのレーシングマシンから生まれた技術なので、カワサキ以外のメーカーも使っています。

ヤマハ「YZF-R1」(2004年)のカットモデル。アッパーカウルの左右に設けたダクトから、メインフレームの左右を貫通してエアクリーナーボックスに空気を導くラムエア加圧
ヤマハ「YZF-R1」(2004年)のカットモデル。アッパーカウルの左右に設けたダクトから、メインフレームの左右を貫通してエアクリーナーボックスに空気を導くラムエア加圧

 たとえばヤマハは「フォースド・エア・インテーク」の名称で、ワークスGPマシンの「YZR500」の1994年型から採用・研究を続け、市販レーサーの「TZ250」にも採用し、公道向け市販バイクでは1999年型の「YZF-R6」に初採用しています。

 その後、2004年の「YZF-R1」にも採用され、現行モデルではMotoGPマシンの「YZR-M1」と同様のM字型センターインテークが特徴です。

 ホンダも2004年の「CBR1000RR」で「ダイレクト・エア・インダクション・システム(ラムエアシステム)」を採用しました。そして2020年の「CBR1000RR-R」では、MotoGPマシンの「RC213V」と同等の開口面積を持つセンターダクトを採用しています。

なぜラムエア加圧装備のバイクは少ないの?

 走行風を利用して吸気効率を高めてパワーアップを狙うラムエア加圧は、ターボチャージャーやスーパーチャージャーのような「過給機」を用いずに加圧できるので、スペースや重量、そして製造コストの面でも非常に有効です。

 ……が、スーパースポーツ系以外のバイクは基本的に採用しないのはナゼでしょう?

ホンダ「CBR1000RR-R」(2020年)のラムエアダクト通路図。大きな開口面積でセンターから吸気しつつ、ハンドル切れ角も確保
ホンダ「CBR1000RR-R」(2020年)のラムエアダクト通路図。大きな開口面積でセンターから吸気しつつ、ハンドル切れ角も確保

 まず、漏斗(ろうと)やメガホンのように、大きな口がすぼまっていく吸気ダクトを設ければ、走行風をガンガン押し込めるような気もしますが、それほど単純ではありません。

 ラムエア加圧非装備の多くのバイクは、シートや燃料タンクの下に設けたエアクリーナーボックスが、横や下に向いたダクトから吸気していますが、それはエンジンが「安定した静かな大気」を必要としているからです。

「ZZ-R1100」が登場した頃の燃料供給はキャブレターが主流で、キャブレターは物理現象で混合ガスを作るため、この「安定した静かな大気」が重要です。

 しかしラムエア加圧は走行スピードで吸気圧力や速度が目まぐるしく変化するので、燃調(混合ガスの濃さ)の管理などを考えると、非常にハードルが高くなります。この部分は、現在のバイクはFI(電子制御式燃料噴射装置)が主流なので、キャブレター時代よりクリアするのが容易になっていると考えられますが……。

 とはいえラムエア加圧によるパワーアップは、走行風圧を利用するため速度200km/hで3%弱~、300km/hオーバーでも5%弱と言われます(諸説あり)。

 なので1/100秒を競うレーシングマシンはともかく、少なくとも公道を走る上ではほとんど効果を体感できない……というのが現実です。

 またラムエア加圧するためには、基本的にバイクの正面に向けて大きな口を開ける必要がありますが、これだと雨水やホコリ、飛来する虫などをどんどん吸い込んでしまいます。そのため市販バイクのラムエア加圧では、吸気経路の途中に凹型のポケットを設けるなど吸い込んだ異物を分離していますが、コレも普段使いが大前提の市販バイクではデメリットと言えます。

 前述したラムエア加圧非装備車の吸気ダクトがシート下などで横や下向きに備わるのには、この理由も関係しています。

カワサキ「W230」のストリップ。エアクリーナーボックスはシート下に装備され、吸気ダクトは右向きでサイドカバーの中に納まる。ラムエア加圧を採用しないバイクでは一般的なレイアウト
カワサキ「W230」のストリップ。エアクリーナーボックスはシート下に装備され、吸気ダクトは右向きでサイドカバーの中に納まる。ラムエア加圧を採用しないバイクでは一般的なレイアウト

 そしてカウリングを装備しないネイキッド車、とくにレトロ系やクラシック系ではデザイン的に採用することができません……。

 というワケで、本格レースに使用するスーパースポーツ系以外は、ラムエア加圧の必要性は微妙なトコロです。とはいえ1馬力でも多く、1km/hでも速いバイクが欲しい! というライダーの願望も確かにあります。その意味では、ラムエア加圧は大切な機構とも言えるのではないでしょうか。

【画像】効果は微妙!? 「ラムエア加圧」を装備するバイクを画像で見る(15枚)

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Writer: 伊藤康司

二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。

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