東南アジアの過酷な道路状況、国境を越えるラリーで約2200キロの距離に挑むサイドカークロスとは?
「宙を舞うサイドカー」とも称される、オフロードをアグレッシブに攻める「サイドカークロス」をラリー仕様に組み上げ、タイ王国で開催された「アジアクロスカントリーラリー2019」に参戦した日本人がいます。
ニーラーからロシア製サイドカー、そしてサイドカークロスへ
ドライバー(ライダー)とパッセンジャーが2人1組で操作するサイドカーには、ウラルのようなレトロな市販(現行)モデルから、競技車両としてニーラーと呼ばれるスピードを追求したレーシングサイドカー、モトクロスマシンのようにオフロードコースで速さを競うサイドカークロス、障害物を乗り越えながらその技術力を競い合うサイドカートライアルなど、じつはいろいろな種類があります。

そのなかで、サイドカークロスを自ら組み上げ、タイ王国を中心におよそ1週間かけて、国境をまたいで行なわれる『アジアクロスカントリーラリー(総称:アジアンラリー)』に、JRSA(Japan Racing Sidecar Association:日本レーシングサイドカー協会)の会長を務める渡辺正人氏がチームを率いて参戦しました。
アジアンラリーには2017年から2019年まで連続参戦している渡辺氏ですが、最初の2年はロシア製サイドカーのウラルで走り、3年目にサイドカークロスを投入したのです。
レーシングサイドカーで、国内はもとより『マン島TTレース』(2007年)や『パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム』(2013年から2016年)など、海外レースにも積極的に挑戦し続けてきましたが、ここ数年はアジアの道にサイドカーで挑むという、非常に稀な活動を続けています。

はたして結果はどうだったのでしょうか? 2019年8月10日から16日のアジアンラリー開催期間を終え、帰国した渡辺氏にお話を伺いました。
──サイドカークロスでアジアンラリーを走ってみて、なにか手ごたえはありましたか?
ウラルに比べると格段に走破性は高く、まだまだタイムアップできそうです。
──競技の結果としては残念ながらリタイアでしたが、その原因や経緯は?
LEG1(競技1日目)では多少のミスコースはありましたが、順調に走ることができ、SS(スペシャル・ステージ:タイム計測が行なわれる区間)を完走できました。
ところがインジェクションに不具合が発生して、RS(ロード・セクション:SS以外の一般道を移動する区間)はなんとか牽引でホテルまでたどり着き、翌日(競技2日目)はメンテナンスで終わってしまいました。

LEG3(競技3日目)はぎりぎりスタートに間に合っていい調子で走れましたが、SS区間でサイド(カー)の前側を切り株にぶつけてしまい、ドライバー(私)は前に飛ばされ、膝でラジエターホースを切ってしまいました。
ホースは応急処置でレースに復帰できましたが、遅れを取り戻そうと焦っていたのもあり、ミスコースからのUターンで右前に転倒し、車体から投げ出されて鎖骨を折ってしまいました。
SA(サービス・エリア:整備を行なうために設定された場所)まで自走しましたが、その場で主催者から救急車で病院へ行くように言われ、その日はリタイアとなりました。
鎖骨はとりあえずバンドで固定したので、翌日はリエゾン(RS区間)だけでも走ろうと思っていたのですが、タイからミャンマーへの国境越えと、ミャンマーでは連日の雨と台風の影響で幹線道路が冠水し、数日間交通が麻痺状態という状況から、主催者の判断によりレースは断念しました。

──ラリーを想定して組み上げたサイドカークロスですが、なにか改善点や改良点はありますか?
燃料タンクへの泥水浸入ですね。それがインジェクションの不具合の原因でした。タンクの改造が必要です。エアーボックスもインテーク位置の改良が必要そうです。それにタイヤの減りが早いので、タイヤチョイスも要検討です。
──来年もチャレンジ(リベンジ)しますか?
もちろん! そのつもりで、走ることが出来なかったミャンマーにいるときから構想を練っています。かみさんの了承も得られました。
──パッセンジャーの大関氏ですが、サイド(カー)で常に立った状態でバーを掴み身構えていた姿から、かなりハードな仕事をこなしていたことが想像できます。なにかコメントはありましたか?
「もっと身体を作らないと!」と言ってましたから、来年もやる気でしょう!

──来年の活躍に期待しています。
1年あるので、いいマシンができると思います。
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2019年のアジアンラリーには、2輪(MOTO)が35台、4輪(AUTO)が37台、そして渡辺氏率いるサイドカーが2台エントリーしました。
参加者は日本人をはじめ、タイ、ミャンマー、カンボジア、マレーシア、インドネシア、シンガポール、韓国、中国、台湾、アメリカ、ルクセンブルク、スコットランド、ウェールズなど、国籍もさまざまです。
アジアンラリーは2019年の開催で24回目となり、アジア最大規模の、その名の通り国をまたいだ“クロスカントリー”ラリーです。今大会ではタイ(パタヤ)からミャンマー(ネピドー)まで、総距離約2200kmというルートでしたが、期間中ミャンマーでは深刻な冠水被害により、競技4日目はすべてのスケジュールがキャンセルとなりました。

大会主催者は政府(実質は各地域の部族)の協力を得て、前日からすべての一般車両(大型トラックやバスなど)を数十キロの距離にわたって停止させ、ラリー関係車両およそ500台が移動できるよう道がつくられたということからも、アジアンラリーの規模の大きさがうかがい知れます。
そんな大会をサイドカーで挑むステージに選んだ渡辺氏のチャレンジ精神は、クラスは違えど同じ競技参加者からも注目を集め、いつの間にか“サイドカーがあって当たり前”な雰囲気にもなっています。
来年の挑戦ではどのような活躍を見せてくれるのか、期待したいところです。
【了】