フロント2輪の安心感は見た目以上! ヤマハ「トリシティ155」乗り物体験記

前2輪+後1輪の3輪で傾きながら旋回するヤマハ「トリシティ」シリーズ。初代「トリシティ125」オーナー伊丹孝裕さんが、2020年型の「トリシティ155」に乗ってそのメリットを解説します。

フロント2輪の見た目から想像する乗り味と現実の差

 たとえば、ヤマハ「SR400」のエンジンを眺めていると、いかにもトコトコと進みそうですよね。逆に「YZF-R1M」のスタイルは、ほぼモトGPマシンと言ってもよく、とんでもなく速そう。こんな風に、カタチからそのバイクの走りをイメージできるものですが、「トリシティ155」のような3輪スクーターはどうでしょう?

ヤマハ「TRICITY 155 ABS」(2020年型)に乗る筆者(伊丹孝裕)

 果たしてクセはないのか? 重たくはないのか? そもそも何かメリットはあるのか……? などなど、ここではこの不思議なカタチの乗り物の体験記を、初期型「トリシティ125」を普段から愛用している僕(筆者:伊丹孝裕)の視点からお届けします。

 操作は一般的なスクーターと同じなので、難しさはありません。キーをオンにしてブレーキレバーを握り、セルスターターのボタンを押せばエンジンが始動。あとはスロットルをひねればOKです。

 車重165kgと聞くと、小柄な人はプレッシャーに感じるかもしれませんが、大丈夫。重たいパーツは車体の下部に集まっているため、引き起こしや取り回しにあまり力を必要としないからです。むしろ驚かされるのは、車重をものともしないエンジンの小気味よさで、交差点からの発進では鋭く加速。交通の流れを余裕でリードすることが可能です。

 通勤や通学で使おうと思っている人にとって気になるのは、車体の大きさかもしれません。なぜならフロント2輪の“圧”はなかなかのもので、かなりワイドに見えるのも事実。渋滞路で持て余しそうな構造ながら、全幅は750mmに過ぎず、これは同クラスのスクーター「NMAX155」よりも10mm広いだけ、全長も25mm長いだけなので、乗車感覚はほぼ同等と言っていいでしょう。

 では、なぜわざわざフロントを2輪にしたのか?

フロント2輪でリーンしながら旋回する「LMW」テクノロジーにより、安定感のある旋回性能、段差などの衝撃吸収、タイヤ2本分のグリップ力と制動安定性などを兼ね備える

 分かりやすい恩恵が路面に張りついたかのようなタイヤの接地感で、とくに雨の日の安定性はバツグン。マンホールのフタや横断歩道のペイントはバイクの大敵ですが、車体を傾けたまま、そこを通過してもヒヤッとするような場面はなく、段差や凸凹を拾ってもあまりフラれません。また、急ブレーキを強いられてもタイヤが1本多いぶん、制動力が向上。ABSも備えられているため、かなり短い距離で停止することができるはずです。

 それでいて、車体を右へ左へとバンクさせるバイクならではの動きはそのまま残され、ハンドリングはナチュラルそのもの。タウンユースに留まらず、収納力や燃費のよさ、軽二輪に区分される排気量も活かしてツーリングに出掛けるのもいいでしょう。

 そんなこんなで1週間ほどたっぷりと乗り、唯一「惜しい」と思ったのが、メーターに表示される緑色の「ECO」インジケーターです。これはスムーズに走っていると点灯し、「上手に乗っているね」とバイクが褒めてくれているわけです。

 ただし、常識的なライディングをしていれば基本的に点いていることが多く、その照度がかなり明るいため、夜間はチラチラと視界に入って結構気になります。なので、逆に乱暴な操作をした時に赤色で光るようなインジケーターだと「もっと慎重に」とたしなめられているようでいいのではないでしょうか。

フロント2輪でも車体は傾き直立で静止するわけではない、というのは一般的なスクーターと同じ

 いずれにしても、3輪の安心感は見た目以上に大きい。新しい技術に挑戦し、安全性に貢献してくれているヤマハに拍手を贈りたいと思います。

【了】

【画像】フロント2輪はどこが安心? ヤマハ「トリシティ155」で見る(11枚)

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Writer: 伊丹孝裕

二輪専門誌「クラブマン」編集長を務めた後にフリーランスとなり、二輪誌を中心に編集・ライター、マシンやパーツのインプレッションを伝えるライダーとして活躍。鈴鹿8耐、マン島TT、パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライムといった国内外のレースにも参戦するなど、精力的に活動を続けている。

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