ドゥカティの「オフ心」が嬉しい!! 新型「デザートX」は全てに上質な高性能を備えていた
2022年モデルとして登場したドゥカティの新型オフロードモデル「DesertX(デザートエックス)」は、排気量937ccのLツインエンジンを搭載し、パリ〜ダカール・ラリーの競技マシンを彷彿とさせるデザインが特徴です。その走りはどうなのか、試乗しました。
超クール! 「デザートX」は相当本気!!
のっけから断定的なコト言いますが、私(筆者:松井勉)このバイク、ドゥカティ「デザートX」に惚れました。

なぜなら、1980年代の後半から2000年代序盤まで繰り広げられた多気筒エンジン大排気量バイクによるワークス同士の戦いのなか、当時ドゥカティブランドを所有していた親会社、それがイタリアのカジバグループでした。そのカジバが、ドゥカティの空冷Lツインエンジンを搭載した「エレファント」というアドベンチャーバイクのプロモーションで、「世界一過酷なモータースポーツ」と言われるパリ〜ダカール・ラリーに参戦。エディー・オリオリのライディングで2度タイトルを獲得しています。
そのモデルをオマージュしたスタイル、カラー、そしてディテールに、すっかりやられてしまったからです。
と、このように、ノスタルジーな思いがスタート地点にあるオジサンでも、昔話を知らない視点から見ても、曲線とエッジを効かせた面構成で見所一杯なデザインは見逃せません。
なにより、丸目2灯のヘッドライトは1980年代のアドベンチェーバイクのアイコン的ディテールでもあり、肉抜きされたリアスプロケットすらかっこいい!
それでいて、古さ推しだけではありません。メインスイッチを入れ、5インチのカラーTFTモニターを経由して設定画面へと入り込めば、そこはドゥカティ最新モデルと同様なビジュアルで、解りやすくアクセスできる世界がしっかりと構築されています。
また、メーター表示にも本気が隠されています。速度、タコメーターなどをグラフィカルに表示する標準モードに加え、ツイントリップを大きく表示をするラリーモードなるパネル表示もあり、このバイクでラリーイベントなどに出る人も視野に入れたもの。

バイクの動きを察知する慣性センサーからの情報も加味した最新の電子制御も搭載。サスペンションは前後ともオフロード系では定評のあるKYB製を選択。この辺にもさらにグレードアップする拡張性のようなものを持たせたところでしょう。
タイヤはフロント21インチ、リア18インチ。アドベンチャーバイク用タイヤでリプレイスの幅が広いチューブレスリムも採用し、ツーリングからオフロード走行を楽しむための準備も万端。
また、純正オプションで8リットル入りのリアサブタンクも用意。フロントの21リッタータンクと合わせれば、長い航続距離を確保できるもの。このタンクはリアのラゲッジシステムなどとは同時装着が出来ないため、ムードを楽しむか、本気で長距離ラリーに参加するかの二択になるはずですが、そこまで周到に準備をするドゥカティ、スゴイ。
エンジンはテスタストレッタ11ディグリー、排気量937㏄の水冷Lツインをトレリスフレームに搭載し、前後とも減衰圧、イニシャルプリロード調整が可能なサスペンションを装備。そのストロークはフロント230mm、リア220mmと充分。
跨がると、250mmのグランドクリアランスを確保しているにもかかわらず足つき感は良好。スチールパネルを使った燃料タンクの足が触れる部分は、面構成もスムーズです。正直、21リットルも入るの? というスリムさです。シッティングでもスタンディングでもコンタクトしやすく、ライディング最優先という匂いがします。

満タン時は確かに重量感があるものの、走り出せばその重みがスっと消えるタイプ。発進時など2000rpm以下では少々アクセルレスポンスが鈍い印象があり、この部分のマップはもう少し詰めて一体感が欲しいところですが、ケチのつけどころはその程度です。
市街地から高速、そしてツーリングに最適な快走路でも乗り心地が良く、サスペンションやタイヤとのバランスの良さが、まず乗り手を笑顔にします。渾身のオフロード性能マシンかと思いきや、ツーリング性能が高いことがすぐ解ります。
ライトマスクと一体になったスクリーンの性能も高く、高速道路移動の快適性も充分。また、ワインディングでの走りもさすがドゥカティ。フロントはブレンボ製4ピストンモノブロックキャリパーをダブルディスクと組み合わせ、リアの2ピストンフローティングキャリパーによる操作性の良さ、ブレーキ性能や減速時の姿勢変化も含め、ビシっと筋の通った走りを楽しめました。ブロックパターンのタイヤですが、舗装路でのグリップに死角ナシ、という印象です。
また、シフトアップ、ダウンともに作動するクイックシフターのレスポンス、シフトタッチの良さなど、きめ細やかな走りの精度を高める操作感の良さも◎です。「パニガーレV2」と変わらないテンションで操作ができるのです。
ライディングモードにはスポーツ、ツーリング、アーバン、ウエットというアスファルトロード向けが4つと、オフロード用としてエンデューロ、ラリーという合計6つが選択可能です。

アスファルト用では「スポーツ」がアクセルに対するレスポンスや開けた時のパワー感が最もダイレクト。「ツーリング」はそれよりもアクセルに対するツキがマイルドに。「アーバン」ではアクセルレスポンスをややダルにして、神経をバイクの挙動よりも周囲に向けやすくなっています。
また「ウエット」ではさらにマイルドになるため、雨の石畳でも不安が減るでしょう。嬉しいのは、「スポーツ」を選択しても、ガツガツした走りにならないこと。充分コントロールしやすいのが印象的。良くできています。
ダート向けの「エンデューロ」では、アクセルレスポンスはマイルド、トラクションコントロールの介入も早め。これによりノーマルタイヤでも安心してダート路を走れる設定です。「ラリー」ではリアブレーキのABSが解除になるほか、アクセルレスポンスもタイトになり、一体感が増します。今回、オフロードコースでは「ラリー」で試乗をしてみました。
前後のサスペンションの良さはダートでも光ります。路面の凹凸の吸収性が良く、タイヤのグリップをより活かしているのが解ります。
21インチサイズのフロントタイヤを履き、サスペンションストロークが長いため、ホイールベースが長いデザードXながら、前後タイヤへの荷重分布も適切で、アクセルコントロールによるダートバイクらしい走りも決めやすいことに嬉しくなりました。
トラクションコントロールを最弱にしてみると、テールスライドの維持もさらにしやすくなり、それでいてリアが必要以上に出てトラクションが抜けるまでにはならない、絶妙なアングルを維持しやすいのも確認出来ました。
正直、ドゥカティにこれほどの「オフ心」があるとは! と、嬉しくなりました。そんなオフ性能と、侮れないロード性能を併せ持ち、しっかりとデザインされたプレミアム感もある。ミドルクラスとは言え200万円を超える乗り出し価格のバイクです。所有感も楽しめます。全てに上質な高性能、それが「デザートX」でした。
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ドゥカティ新型「DesertX(デザートエックス)」の価格(消費税10%込み)は199万9000円からとなっています。
Writer: 松井勉
モーターサイクル関係の取材、 執筆、プロモーション映像などを中心に活動を行なう。海外のオフロードレースへの参戦や、新型車の試乗による記事、取材リポートを多数経験。バイクの楽しさを 日々伝え続けている。