ホンダの個人向け電動スクーター「EM1 e:」 誰が買って誰が使うのか 見えてきたパーソナルモビリティの電動シフト
ホンダ初の個人向け電動スクーター「EM1 e:」が、2023年8月24日に発売されました。また、同社ビジネス向け電動バイクも、誰でも買える無条件販売となり、世界バイクシェアでトップを走るホンダの、母国ニッポンで進めるEVバイク戦略が見えてきました。パーソナルモビリティの世界に、電動バイク本格参入の第一歩です。
交換式バッテリー、初のショップ直接販売
2023年8月24日、ホンダ初の個人向け電動スクーター「EM1 e:(イーエムワン・イー)」が発売されました。これまでとの大きな違いは、ガソリン車とまったく同じ店頭販売方式で、比較しながら買えること。リース販売で事業者限定という縛りはありません。

電源として搭載するのは、交換式の「Honda Mobile Power Pack e:(ホンダ・モバイル・パワー・パック・イー)」1本です。同じ方式のパーソナルモビリティでは「PCX Electric」が発表されていますが、こちらは2本。ハイパワーでガソリン車を上回る出足を誇っていましたが、トランクスペースがないなど、使い勝手が犠牲になっていました。
「EM1 e:」は、バッテリー単体、充電器、それぞれ単体での価格が設定されているので、ガソリン車にないバッテリーシェア方式に道を拓く車両としても期待されています。購入者は車体だけを所有し、バッテリーは所有せず、月々の利用料という形で、充電済みのバッテリーをバッテリーステーションで交換します。
使用頻度劣化や経年劣化を避けることができる上に、車両価格の大きな割合を占める初期費用を抑えることができます。「バッテリーシェアリング」を利用すれば、充電のわずらわしさからも開放されます。このバッテリーシェアリング方式は、来年から「Gachaco(ガチャコ)」が提供する予定です。
電動シフトの理解が進めば、販売計画台数突破も楽々?
ホンダは、「EM1 e:」の発表から販売日までの受注状況も公表しています。それによると年間販売計画台数は3000台、発売前の受注台数は746台とのこと。2023年5月に発表された「EM1 e:」は、約4カ月で計画台数の25%の前予約を獲得。すでに計画台数の達成も視野に入っています。

ホンダは販売店に対して、電動車を取り扱うための資格取得を求めています。ホンダ二輪EV取扱店は526店。この取扱店数とあわせて受注台数を見ると、単純計算で多くの店が1~2台の受注にとどまっていることがわかります。
電動車は受け入れられるのか? ライダーと同じようにバイクショップも手探り状態です。販売店の不安を解消するため、ホンダは「EM1 e:」をはじめとした電動車取扱店のスタッフのための講習会も開催しました。
「電動車の整備も安心して任せられるショップとして、すべての取扱店のスタッフを集めて、整備の注意点やEM1 e:の魅力を説明。整備の実演も行いました」(企画部マーケティング課・三奈木浩一係長)

オンラインでの販売を主力とする電動車との差別化は、いかにバイクショップでの取り扱いを増やすことができるかにかかっています。ホンダは販売店の試乗車準備も進めていきます。
また、「BENLY e:(ベンリィ・イー)」、「GYRO e:(ジャイロ・イー)」、「GYRO CANOPY e:(ジャイロキャノピー・イー)」など、2019年から先行してリース販売していたビジネス用電動バイクシリーズも、全国で直接店舗販売を開始。電動バイクの相乗効果を狙います。
都市部の40代、50代の買い替え需要、意識高い層に拡大
電動車の購入層も見えてきました。前出の三奈木係長は「注文者は約8割が男性で、東京大阪の都市部に住んでいる40、50代の人」と話します。

バイクの新車購入平均年齢は54歳。スクーターなどの利用年齢層は60代、70代でも多数派です。「EM1 e:」の購入者は、そうした平均像よりも低い年齢層が支持していることがわかりました。
原付バイクは、1台を長く乗り続けるより2~3年で乗り換えを繰り返す傾向がありますが、40代、50代は高い買替意欲があります。
「環境意識の高い乗り換え層がEM1 e:に反応していることが考えられる」(三奈木係長)
「EM1 e:」の投入で、電動の将来性を評価するライダーを核に、バイク未体験層を引き込む展開も現実味を帯びてきました。
Writer: 中島みなみ
1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。