カスタム用語集Vol.6~ 「あんこ抜き」……足つき性をアップしつつ、ルックスの変化も楽しめる!!
さまざまなパーツメーカーからカスタムシートが発売されています。しかし、交換することなくシートカスタムを楽しめる方法があります。それが「あんこ抜き」と呼ばれる手法です。
かつてのシートカスタムの定番手法
シートはライダーの座り心地や足付き、体重移動のしやすさなど、ライディングにおいて非常に重要です。また、バイクのルックスを決定づけるため、ドレスアップ効果の高さも無視できません。

そのため、シートの交換はカスタムの定番となっています。ルックスの変化や座り心地の向上など、ライダーそれぞれが目的を持ってカスタムを楽しんでいるようです。
しかし、それもカスタムシートが定番パーツとしてたくさん発売されている今だからこそのお話。1990年代以前は今ほどカスタムシートが多くありませんでした。そんな時代にシートカスタムの定番だったのが「あんこ抜き」と呼ばれる手法です。
あんことはシートのスポンジのこと。つまりあんこ抜きとは、スポンジを抜いてしまう、ということですが、実際は「抜く」のではなく「削る」と言った方が良いでしょう。
スポンジを美しく削って、表皮を美しく被せる……これが難しい!
その方法は、まずシートを車体から取り外し、表皮を剥がします。大抵の場合、表皮はシートベースにステープルで留められているので、それを外すだけ。さあ、ここまでは簡単です。
あとは露出したスポンジを削るのですが、これが簡単そうで難しい。例えば、足つきを良くするために角を落とすにも、左右を均等に削らなければなりません。もちろん、一旦削ると元に戻せないため、削りすぎは禁物です。
右側を削って、左を削り……あ、削りすぎたから、右側も合わせてさらに削って……なんてことをしていたら、座面が尖りすぎてしまった!! なんてことにもなりかねません。
そして、表皮を張るのも一苦労。もともとシート表皮はスポンジの形に合わせて縫製されているため、削って薄くなったスポンジには合いません。そこをなんとか引っ張りながら、バランスを見て違和感のようないように合わせていくのです。一筋縄ではいきません。
そう、スポンジを削るのも、表皮を貼り直すのも、センスと腕のいる作業なのです。
そのため自信がないライダーは、専門のシート張替え業者にオーダーすることが多いようです。

あんこ抜きのメリット
前述のとおり、今ではたくさんのカスタムシートが発売されているため、わざわざ純正シートをあんこ抜きする人は多くはありません。
しかし、あえてあんこ抜きを選ぶ人もいるようです。理由は主に以下の3つが挙げられます。
1)リーズナブルにカスタムできる
あんこ抜きを自分で行う場合、必要なのはタッカー(いわゆる建築用ホッチキス)とステープル(コの字形の釘)代くらい。腕とセンスに自信があって、自分で作業するなら、安く仕上げることができます。
2)マイナーモデルでもカスタムできる
マイナーモデルの場合には、そもそもカスタムシートを売っていないということもあります。それでもあんこ抜きなら純正シートを使用するので、カスタム可能。つまり、どんな車種でもカスタムを楽しめるのがあんこ抜きなのです。
3)70年代スタイルの再現
カスタムシートが今ほど多くなかった70年代以前は、シートカスタムといえば「あんこ抜き」でした。逆に言えば、70年代スタイルを再現する場合、「あんこ抜き」が必須ということ。
そのため、今でもZ1やCB750Four、SR400などにあんこ抜きを施して、当時風スタイルに仕上げる人は多いようです。
ちなみにカスタムシートでも、あえて「あんこ抜き風」デザインを持つものもあります。かつてはパーツがないために仕方なくやっていた側面もあった「あんこ抜き」ですが、時代を経て、今ではシートデザインのひとつとなっているのです。
Writer: 佐賀山敏行
カスタムバイク専門誌の編集長を経て、現在はヤマハSR400/500に特化したWEBマガジン「The SR Times」を運営する。自身も現在93年式と14年式の2台のSRを持つフリークだが、基本的にはバイクは何でも好き。