【インタビュー】MotoEマシン、ドゥカティ「V21L」に備わる独自の電気ブレーキと冷却システムとは
バッテリーを適切な温度に保つ冷却システム
「V21L」にはもうひとつ、独自のシステムを備えています。それが、バッテリーの冷却システムです。

「V21L」は110kgのバッテリーパックを搭載しており、その中には人差し指くらいの大きさのセルが1152個詰め込まれ、バッテリーパックを構成しています。
「バイクには、全ての温度をコントロールする電子システムがあります。例えば、バッテリー内の冷却液を、ラジエーターを通して流すポンプをオン、オフすることができます。バッテリーの温度を少し温かく保つために冷却液を減らすこともできるし、温度を低く保つために冷却液を増やすこともできます。つまり、全てのセルを一定の温度に保てるようになっているんです」
同席していた製品コミュニケーション部門の責任者であるジュリオ・ファブリさんも「バッテリーの温度を保つことは、マシンが1周目から最終ラップまで安定したパフォーマンスを発揮するために、とても重要なんです」と、付け加えました。
「わたしたちは水でバッテリーを冷却しています。しかし、水がバッテリーパックの中を自由に流れるわけにはいきません……そうなったら、何が起こるかわかりますよね?」と、カネさんは冷却システムの詳細について説明します。
「というわけで、私たちはバッテリー内にいくつかの特別な水路を設け、その水路がバッテリー内のそれぞれのセルに触れるようになっています。そうすることで、バッテリーパックの全てのセルを安定して同じ温度に保っているのです」

バッテリーを水冷する、この冷却システムは、ドゥカティが開発した唯一無二のもの。ファブリさんによると、長くエレクトロニクス部門に携わってきたカネさんが、バッテリーの温度管理を非常に重要だと考え、発案されたそうです。
この話を教えてくれたのはカネさんのインタビューが終わったあと、ファブリさんが実際の「V21L」を見ながら説明してくれていた時のことでした。
「彼は天才なんだ」と、ファブリさんはうなずいて見せました。ファブリさんによれば、2023年、バッテリーにかかわるトラブルは起こらなかったということです。
徹底したバッテリーの温度管理は、充電サイクルをも改善しました。通常であればバッテリーが高温になるような走行後も、すぐに充電を行なうことができるのです。「V21L」は45分でバッテリーの80%の充電が可能です。1回の走行時間は約15分ですから、1時間サイクルで走行と充電を行なうことができるというわけです。
実際に、ポルトガル大会でプラクティス終了後に「Eパドック」を覗くと、まだ終わって間もないというのに何台もの「V21L」が充電を開始していました。
リアの電気ブレーキとバッテリーの冷却システムは、V21Lが備えるなかでも特に注目すべき最先端テクノロジーでしょう。
ドゥカティの電動バイク、市販化はいつ?
詳しく「V21L」を知るにつけ、膨らむのは市販化への期待です。最後に、カネさんに「ドゥカティは、いつ市販の電動バイクを発表するのでしょう?」と聞きました。

「現在の量産電動バイクを見ると、バイクがあまりにも重い。特にバッテリーが重いんです。許容できる航続距離を確保するため、必要なエネルギーをバイクに搭載しようとすれば、非常に重いバイクを作ることになります。とくにパフォーマンス重視のドゥカティにとっては、現在の状況では難しいでしょうね。今後の展開を注視していきましょう」
ドゥカティの電動バイクが公道を走るには、バッテリーの進化が必要だということです。それまでは、サーキットを駆け抜ける電動レーサー「V21L」の走りを観て楽しむことにしましょう。
■FIM Enel MotoE World Championship
2019年にスタートした電動バイクによるチャンピオンシップ。2019年から2022年まではWorld Cup(ワールドカップ)として開催されていたが、2023年よりWorld Championship(世界選手権)となった。MotoGPのヨーロッパ開催グランプリのうち数戦に併催され、2024年シーズンは土曜日に各2レース開催で全8戦16レースが予定されている。バイクはドゥカティ「V21L」のワンメイクで、タイヤはミシュラン。2024年シーズンからエントリーするチャズ・デイビス選手を含め、9チーム18名のライダーが参戦する。
Writer: 伊藤英里
モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。









