高度1万mのグルメ!? 予想外の帰国フライトで「機内食」を堪能 緑茶で胸に去来した後悔と安堵とは
慣れた味というのは不思議なものです。心が躍るとともに、落ち着きます。パスポートの盗難に遭ってやむなく日本に帰る飛行機で、美味しい機内食と、心が弾む緑茶に出会いました。
「機内食」は楽しみだけど、本来は地上にいたハズだった……
2025年シーズンのMotoGP第9戦イタリアGPの取材を終えて、筆者(伊藤英里)は急遽、日本に帰国することになりました。フィレンツェからマドリード、ドーハ経由のフライトです。この航空券をとったのは、イタリア出国のつい数日前のこと。というのも、イタリアGP取材のためにやって来たフィレンツェで、パスポートを盗まれてしまったからでした。

盗難に遭った現場は、旅程の都合でフィレンツェのサンタ・マリア・ノヴェッラ駅から空港に向かうトラムでした。
車内でイタリア人の女性が、筆者のすぐ近くにいた少女にイタリア語で注意していたのです。かなり激しい口調だったので驚いていると、女性は筆者のほうを向いて「マダム、その子(少女のこと)に注意してください」と英語で言うのです。今思えば、女性は少女が不審な動きをしているのを見て、注意してくれたのでしょう。
少女はすぐにトラムを降りてゆき、あとに残った筆者のリュックサックからは、パスポートが入ったポーチが消えていました……。
「ああ、やられた……」
ジッパーの開いたリュックサックを見て思いました。なにしろ、スーツケース2個を抱えてヨロヨロとトラムに乗り込み、リュックサックを背負ったままスマホをいじっていたのです(今思い返すと不注意にもほどがあります)。少女から見たら、鴨がネギどころか鍋の具材とスープまで背負ってノコノコやってきたようなものだったでしょう。
筆者は、4・5月から9月までの数カ月間、ヨーロッパに滞在しながらMotoGPを取材するのがここ数年のルーティンになっています。しかし、このような事態になってしまい、パスポートを申請するために、やむなく一時帰国することになったのです。
ちなみに、ヨーロッパ間のフライトはだいたい2~3時間程度なので、日本までのフライトでもなければ「機内食」を提供されることはありません。
だから「こんな形でまた機内食を食べられるとはなあ……」と思いながら、マドリードからドーハまで、ドーハから成田までのフライトで、しっかりと機内食を堪能しました(筆者にとって、機内食はMotoGP取材の楽しみのひとつになっています)。
ということで、とりわけ美味しかったのが、マドリード~ドーハ間のカタール航空の「チキン」メニューです。
この時のもうひとつの選択肢は「ビーフ」でしたが、「メキシカン……」という辛そうな料理だったので、無難にチキンにしました。辛いのは大の苦手なのです。傷心とまではいかずとも、それなりにべっこりとへこんだ心に、これ以上追い打ちをかけられたくありませんでした。
チョイスした「チキン」は、チキンのクリームパスタで絶品でした。煮込まれて柔らかいチキン、アボカドもクリームによく合い、ソースはフリッジにほどよく絡みます。
カタール航空は、筆者の経験の中では「この機内食、美味しいな」と思うことが多い航空会社のひとつです。

また、機内食ではありませんが、ドーハから成田に向かう、これもやはりカタール航空の機内で緑茶を提供されたときのことを覚えています。
「ティーをください」と伝えると、キャビンアテンダントが「グリーンティーでよろしいですか?」と微笑みました。「もちろん!」と即答です。まさか緑茶が用意されているとは思わなかったのです。
最近ではイギリスやスペイン、イタリアでもスーパーマーケットでティーバッグの緑茶を購入できますが、どうしても味については妥協しなければなりません。紙コップに入れて手渡された緑茶も、苦みが強く、決して美味しいとは言えませんでした。
本来なら乗っているはずのない日本に向かう飛行機で、緑茶を飲んでいるということも心にずしんと堪えました。
けれど、それ以上に感じたものは、ほんわりと心に広がりました。「まあ、仕方がないよなあ」と、数え切れないくらいに何度も自分に言い聞かせた言葉を、もう一度繰り返します。
ゆっくり時間をかけて、小さな紙コップを空にしたのでした……。
Writer: 伊藤英里
モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。





