もはや「死語」!?「“パワーバンド”をキープ!」……ってどういう意味?
かつて(1980年代?)先輩ライダーから「パワーバンドをキープして……」なんて言われた経験があるかもしれません。そもそも「パワーバンド」とはどういうことなのでしょうか? どんなバイクにもあるのでしょうか?
エンジンのパワーをもっとも発揮できる回転域
公道をバイクで走る上では交通法規を守るのは大前提ですが、昔はキビキビ走るために「パワーバンドをキープして……」と先輩ライダーに言われることもありしました。とくにサーキット走行ではパワーバンドのキープが必須なイメージもありました。
そんなかつてのバイクシーン、と言うかライディング用語で頻繁に語られた「パワーバンド」とは、いったいどういうことなのでしょうか?
パワーバンドとは、エンジンがもっとも効率よくパワーを発揮できる回転域のことを指し、一般的には最大トルクの発生回転数から、最高出力の発生回転数の間がパワーバンドになります(最大トルクが発生する手前の、トルクが強まり始める回転数からをパワーバンドとする説もある)。

そこで頻繁にギアチェンジを行って、エンジンの回転数がこの回転域から外れないようにして走るのが、「パワーバンドをキープ」するテクニックというワケです。
そう聞くと速く走るための秘訣に思えますが、「なんだかせわしない乗り方だな……」と感じる人もいるかもしれません。
じつは昔(1970年代頃まで)の小排気量(50~90ccくらい)の2ストロークエンジン車だと、パワーバンドから外れてしまうとアクセルを開けても「モゥ~」っというばかりでエンジンの回転がなかなか上がらず、かなり加速が鈍くなるのも事実でした。その意味ではパワーバンドをキープするのは大切だったと言えます。
とはいえ2ストロークエンジン車で1980年代以降の250ccを超えるようなバイクあれば、公道を交通ルールの範囲で走る分にはそれほどパワーバンドを意識しなくても、ギアチェンジをさぼらない限りは普通に走ることができました。なので、これ以降の話はサーキット等のスポーツ走行と捉えてください。
昔のバイクはパワーバンドキープが難しかった?
現在も人気の高いホンダの2ストローク2気筒エンジンのレーサーレプリカ「NSR250R」(1989年型)の場合、最大トルクは3.8kgf・m/8000rpmで、最高出力は45ps/9500rpmなので、パワーバンドは8000~9500rpmの間の1500回転になります。

そこで年式の近い4ストロークV型2気筒エンジンを搭載するホンダ「VT250スパーダ」(1988年末発売)を見ると、最大トルクは2.6kgf・m/9000rpmで、最高出力は40ps/12000rpmなので、パワーバンドは9000~12000rpmの間の3000回転になります。
エンジンが 2ストロークと4ストロークで異なるので単純比較はできませんが、パワーバンドの回転域は「NSR250R」より「VT250スパーダ」の方が2倍も広いです。ということは、速く走るためのパワーバンドのキープは「NSR250R」の方が難しかった、と言えるかもしれません。
それでは現代のバイクはどうでしょうか? ホンダ「CBR250RR」の4ストローク並列2気筒エンジンは、最大トルク2.3kgf・m/11000rpmで最高出力38ps/12500rpmなので、パワーバンドの回転域は1500回転になり、「NSR250R」と同じ……というか、40年近く旧い「VT250スパーダ」よりもパワーバンドがグッと狭くなっています……。
この数字だけ見ると、現行「CBR250RR」はパワーバンドをキープして走るのが難しいのではないか、と感じなくもありません。しかしバイクのエンジンは日々進化しており、そんなことはないのです。
いまどきバイクは全域がパワーバンド!?
近年のバイクのエンジンは、トルクのフラット化(トルクバンドが広い、とも表現)が顕著です。トルクの変化をグラフ化すると、昔のエンジンは最大トルクを頂点にして比較的尖った山型になりましたが、現代のエンジンはかなり「なだらか」になっています。

とくに欧州のアッパーミドル(600~800ccくらい)のエンジンだと、最大トルクの80%を、かなり低回転で発生する車両が増えています。たとえばアプリリア「RS660」は4000rpm、トライアンフ「デイトナ660」は3125rpm、ロイヤルエンフィールド「INT650」は2500rpmで、最大トルクの80%を発揮しています。
そんな低回転から最大トルクの発生回転数まで、かなりなだらか(フラット)にトルクが上昇していきます。
したがって、一般論の「最大トルク発生回転数から最高出力発生回転数まで」のパワーパンドが狭くても、実質的には「大きなトルクを発生しているずっと低い回転数からパワーバンドが始まっている」、と言っても過言ではありません。
たとえばホンダ「GB350」では最大トルクが3000rpmで発生し、最高出力が5500rpmなので数字的なパワーバンドの回転域は2500回転ですが、現実的な使用回転域とほとんど重なっているので、実質的には「全域がパワーバンド」と言えるでしょう。
ちなみに本格レースに参戦するスーパーバイク系は、とにかく性能を追求しているため、数字上のパワーバンドは一般的に狭い傾向があります。

ところがドゥカティ「パニガーレV4 R」は、最大トルクが11.7kgf・m/11000rpmで最高出力が218ps/15750rpmなので、パワーバンドの回転域は3750回転もあります。サーキットでもこの回転域だとあまりにハイスピードなので普通のライダーでは難しいかもしれませんが、このパワーバンドの広さも戦闘力の高さのひとつなのではないでしょうか。
というワケで、現代のバイクではサーキット走行やレースなどの状況を除けば、「パワーバンドをキープ」についてはことさら意識する必要はないでしょう。
また蛇足ではありますが、今後増加するであろうEVバイクの動力である電動モーターは、理論的には回転を始める瞬間から最大トルクを発揮できるので「全域パワーバンド」が一般的になるかもしれません。そうなると、パワーバンドが「死語」になる時代がやってくる可能性もあります。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。












