「停車時はシート高が低くなればいいのに……」自動“シャコタン”バイク 最新モデルだけじゃない!? 30年以上前にあったスズキの画期的な機構とは!!
バイクで言われる「足着き性」は、小柄なライダーにとってかなり切実です。「走り出したら関係ない」とは言うものの、走っていないときが大問題です。それは世界的にも共通らしく、停車時に車高が下がる機能が登場しました。
いまどきのバイクはシートが高くて足着きが厳しい(涙)!
無謀な運転や相手のある事故を別とすれば、バイクが転倒する最も多いパターンは「立ちゴケ」ではないでしょうか。その原因として「足着き性」が良くないことで、停車時は常に立ちゴケの危険に緊張を強いられます。
足着き性の良し悪しは、ライダーの体格はもちろん、バイクのカテゴリーによっても異なります。
クルーザー系(いわゆるアメリカン)ならおおむねシート高が低いので、足着き性に不安を感じるライダーは少ないかもしれませんが、逆に言えばクルーザー以外の近年のバイクは、総じてシート高が上がっているように感じます。

ちなみに、2000年代初頭では、ネイキッド系は排気量が250ccクラスから1000ccオーバーまで、シート高が800mm以下のモデルが多く、スーパースポーツ系でも820mmくらいで、当時は「かなりシートが高い」と言われていました。
ところが近年は、ネイキッド系でシート高800mm超えは普通で、スーパースポーツ系は830mmオーバーが一般的、なかにはヤマハの「YZF-R1M」のように860mm(!)というモデルもあります。
また欧州で人気の大型アドベンチャー系だと、シート高850mmオーバーがメジャーです。
もちろん2000年代初頭と比べると、現行バイクは車重が軽くなったり、着座位置のフレームやシートの幅などが狭くなっているため単純に比較はできませんが、やはり絶対値としてシートの高さが足着き性に影響するのは事実です。
停車時に「シャコタン」になるバイクがある!?
もちろんシートの高さ、すなわち「ライダーの着座位置」はそのバイクの運動性(ハンドリング)にも大きく影響するので、バイクメーカーもただ高くしているワケではありません。
他にもアドベンチャー系のバイクは最低地上高を確保したり、サスペンションのストロークを長くすることで走破性を高めていますが、これは当然ながらシートの高さに繋がります。
というワケで、シート高と自分の体格による足着き性の悪さから、乗りたいバイクをあきらめるケースも少なくないでしょう。そんな時、「停車時にシート高が低くなって足着き性が良くなればいいのに……」と切に思います。
ところが近年は、「停車時にシャコタンになるバイク」が存在します。
例を挙げると、まずBMWの「R 1300 GS」および「R 1300 GS Adventure」には、「アダプティブ・ビークル・ハイト・コントロール」と呼ぶ車高調整機能が備わります。これは停車時および低速走行時に、シート高が自動的に約30mm下がるシステムです。
ドゥカティの「ムルティストラーダV4 S」や「ムルティストラーダV4 RALLY」も自動車高低下システムを備え、10km/h以下の低速時はサスペンションのプリロードが瞬時に下がることで足着き性を良くします。そしてスピードが50km/h以上になるとプリロードがプリセット値に戻ります。
他にも、ハーレーダビッドソンの「PAN AMERICA 1250 ST/Special」は「アダプティブ・ライド・ハイト」によって停車時にシート高が自動的に25mm低くなります。トライアンフの「タイガー1200」シリーズも同様のシステムにより、停車時はシート高が20mm低くなります。
ちなみにハーレーとトライアンフのシステムは、日本のSHOWA製(現Astemo)の第2世代の電子制御サスペンション「SHOWA EERA Gen2」と、車高調整の「HEIGHFLEX」のシステムがベースになっています。
そしてここで紹介した車両は、すべて大型アドベンチャーモデルです。このカテゴリーでは走破性の高さと足着き性の悪さはトレードオフにありましたが、その関係を解決すべく、停車時に車高が下がるシステムが投入されたのです。
車高調整は30年以上も前にスズキが作っていた!?
前出の海外メーカーのアドベンチャーモデルは、全車が電子制御式サスペンションを装備しており、その技術から発展させたのが自動車高調整(車高低下)システムです。
それなら、電子制御サスペンション装備のスーパースポーツ系やスポーツツアラー系にも採用できるのでは……と思いますが、現時点では目にしません。
システムを構成する部品が増加して、少なからず重量増となるためスーパースポーツ系には採用されないのかもしれませんが、豪華装備のツアラー系なら採用してもよいのでは……と思わなくもありません。
いずれにしても重量や生産コスト(=車両価格)が少なからず上昇するので、(現時点では)小~中排気量モデルに電子制御式サスペンション装備車が存在しない=車高低下システムも装備できないのかもしれません。
ところが、今から30年以上も前の1990年に、車高(シート高)を変えられるバイクが存在しました。それが、スズキのオフロードモデル「DR250S」のバリエーションモデルとして、スズキ70周年記念車として発売され、「SHC(スズキ・ハイト・コントロール)」と呼ぶ車高調整機構が備わった「DR250SH」です。

このバイクはハンドルの左側に備わるダイヤルを回すことでHi/Loを切り替え、Hiだとシート高870mm、Loだと825mmに調整できます。そしてSHCのすごいところは、電気モーターや電子制御を用いず、機械的にHi/Loを切り替えられたところです。
簡単に仕組みを説明すると、コンパクトな油圧ジャッキを装備しており、ダイヤルをLoに回すとジャッキの油圧が抜けてフロントフォークが約50mm短くなり、リアショックユニットが約17mm短くなります。リアサスペンションはリンク式なので、レバー比によってシート高としては45mm低くなります。
そしてダイヤルをHiに回すと、ジャッキの油圧によってフロントフォークとリアショックユニットが伸び、車高(シート高)が高くなります……が、特筆すべきは油圧ジャッキの動力です。
普通であれば油圧モーターなど動力でジャッキを稼働しますが、このバイクはサスペンションが走行によって上下動するストロークを用いて油圧ジャッキを動かしていました。そのためダイヤルをHiに回してもスグに車高は上がりませんが、100mほど走行すると上がり切ったそうです。
ちなみにSHC非装備の「DR250S」に対して、車両重量は1kg増しの118kgで、価格は3万円アップの44万9000円。重量も車両価格の上昇も抑えた見事な機構と言えます。
もちろん近年の自動制御とは異なり、ライダー自身の操作が必要ですが、バイクに跨ったままで工具なども使わずにダイヤル操作のみで車高(シート高)を変えられるのは、極めて画期的です。
オフロードモデルやアドベンチャーに限らず、もし近年のシートが高いバイクが「DR250SH」のSHCのような車高調整機構を装備していたら、けっこう売れるのでは……と感じなくもありません。
Writer: 伊藤康司
二輪専門誌『ライダースクラブ』に在籍した後(~2005年)、フリーランスの二輪ライターとして活動中。メカニズムに長け、旧車から最新テクノロジー、国内外を問わず広い守備範囲でバイクを探求。機械好きが高じてメンテナンスやカスタム、レストアにいそしみ、イベントレース等のメカニックも担当する。








