電動バイクレース『MotoE』 ちょっと変わった予選方式と、たった12分間の決勝レース
電動バイクによって争われるチャンピオンシップ『MotoE』は、MotoGPとは違ったタイムスケジュールで進行します。MotoEのレースウイーク、そして独自の予選方式と決勝レースについて、詳しく解説していきましょう。
MotoGPとはちょっと違う? MotoE独自のタイムスケジュール
2019年に始まった電動バイクのチャンピオンシップ、FIM Enel MotoE World Cup(以下、MotoE:モト・イー)は、MotoGPのヨーロッパで開催されるグランプリ数戦に併催されています。3年目を迎える2021年シーズンは、6戦7レースが開催予定。バイクは『Energica Motor Company』の電動レーサー『Ego Corsa(エゴ・コルサ)』、タイヤはミシュランによって供給されています。

そんなMotoEのレースウイークのスケジュールは、MotoGPとは少し異なっているのです。2020年のスケジュールでは、金曜日に練習走行であるフリー走行の1回目と2回目がそれぞれ30分間、土曜日にフリー走行3回目(30分間)と、「Eポール」と呼ばれる予選が行なわれ、日曜日には決勝レース、というのが基本的な流れです。
MotoEは1戦で2レースが開催されるグランプリもあり、その場合は土曜日のフリー走行3回目が無くなり、土曜日にEポールとレース1、日曜日にレース2が行なわれます。
MotoGPの場合は、金曜日にフリー走行1回目、2回目がそれぞれ45分で行なわれ、土曜日にフリー走行3回目(45分間)と4回目(30分間)、そして予選があり、日曜日には20分のウオームアップセッションのあと決勝レース……というのが基本のスケジュールです。MotoGPに比べて、MotoEライダーはより限られた時間の中で決勝レースに向けて準備をしていくことになります。

MotoGP併催のため、スケジュールに余裕がないことが、こうしたMotoEのタイムスケジュールの要因です。開催初年度の2019年には、基本的にフリー走行3回目がなかったほど。2020年にはこの点が改善され、2レース開催のグランプリを除き、3回のフリー走行が行なわれました。
予選は1人1周のタイム計測
予選方式もMotoGPとは異なります。MotoGPの予選では、ライダーはフリー走行3回目までの結果により予選1(Q1)と予選2(Q2)のセッションに振り分けられ、各15分のタイムアタックによって争われます。たとえばQ2に振り分けられたライダーは、セッションが始まると一斉にコースに出てタイムの計測を行なうわけです。
一方、MotoEの予選Eポールは1人ずつ、1周のアタック形式です。フリー走行3回目までの総合順位の下位ライダーから順番にコースに出て、タイム計測を行ないます。タイムを記録できるのは1周だけですから、もし転倒でもしてしまったら、記録なしになってしまうのが難しいところです。

また、雨が降って路面が濡れた状態の場合は、方式が変わります。MotoGPと同じようにすべてのライダーがコースに出て、12分間のタイム計測を行ないます。なお、2020年シーズンまでにこの方式での予選は行なわれていません。
ちなみにピットロードからコースへ出るときは専用のゲートを通るのですが、コースインが許されるのは5秒の間のみです。あまり見ない方式ではないでしょうか。初年度である2019年開幕戦ドイツGPでは、許された5秒間より早くコースに出てしまい、計測タイムが抹消されたライダーもいました。
こうして決勝レースのグリッド(スタートする位置)が決まるのですが、2レースが行なわれた2020年エミリア・ロマーニャGP(ミサノ)からは、レース1の結果がレース2のグリッドに反映されるよう変更となりました。こうしたシーズン中のアップデートも、始まったばかりのチャンピオンシップらしさと言えるでしょう。
将来的に周回数は増える? 決勝レースは超スプリント!
2020年までに行われたMotoEは、レースの周回数が5周から7周で設定されていました。周回数は天候やサーキットによって異なり、すべてのライダーがスタートからフィニッシュまで、全開で攻めて走ることができるようになっています。つまり、MotoEは、ライダーがバッテリー残量などの“電費”を考慮せずに競い合う電動バイクレースということです。先に述べたように、MotoEはすべてのライダーが『エゴ・コルサ』という同じマシンを走らせますから、“ライダー次第のレース”という色合いがより濃いモータースポーツと言えるでしょう。

ところで、MotoEの周回数は、テクノロジー向上とともに増えるのでしょうか? MotoGPの決勝レースが時間にして45分程度なのに対し、MotoEのレース時間は最大でも12分程度、超スプリントレースなのです。
しかし、意外にも周回数が大幅に増えることはないようです。多少は周回数が増えるようですが、それでも基本的に、こうした超スプリントレースが継続される見込みです。
MotoEのエグゼクティブディレクターを務めるニコラ・グベールさんによれば、MotoGP併催の現状、レースウイークのスケジュールに余裕がないということがひとつの理由としてあり、また、若い人に興味を持ってもらうレースとして、短い時間のレースが有効なのではないか、という狙いが、もうひとつの理由だそうです。
「若い人は興味の移り変わりが早いので、約15分という短いレースは、彼らを惹きつけることができると思います。また、短い周回のレースは激しく、常に何かが起こります。ライダーは毎周全力で攻める必要がありますからね。だからおもしろいレースになるのだと思います」
つまり、短い時間のレースはMotoEのひとつの特徴であり、コンセプトであるということです。
※ ※ ※
はじまったばかりのチャンピオンシップ『MotoE』は、独自のおもしろさを模索しながら、今後も進化を続けていくことでしょう。
【了】
Writer: 伊藤英里
モータースポーツジャーナリスト、ライター。主に二輪関連記事やレース記事を雑誌やウエブ媒体に寄稿している。小柄・ビギナーライダーに寄り添った二輪インプレッション記事を手掛けるほか、MotoGP、電動バイクレースMotoE取材に足を運ぶ。