ホンダ「NC750X DCT」のツーリングでの使い勝手がさらに進化している! 残すはあとひとつ!?
アドベンチャーテイストの扱いやすいスポーツツアラーとして存在感を放ち続けているホンダ「NC750X」は、2021年のマイナーチェンジでさらに進化。ツーリングでの使い勝手を検証してみました。
やっぱり便利!! 進化しても買い物カゴ的な使い方は健在
アドベンチャーテイストの扱いやすいスポーツツアラーとして存在感を放ち続けているホンダ「NC750X」は、2021年のマイナーチェンジでさらに進化しました。そこで神奈川県の三浦半島までツーリングに出かけ、実際に使い勝手を検証してみました。

「NC750X」は、大型バイクではありますが、実車を目の前にすると意外とスリムでコンパクトな印象です。シート高も800mmと低め、車両重量も、同じホンダでツインエンジンを採用するアフリカツインよりもずっと軽く、とにかく気負わすに乗れるマシンです。
今回試乗したのは「DCT(Dual Clutch Transmission:デュアルクラッチトランスミッション)」という、クラッチ操作が不要で、車速に応じてバイクが勝手に最適なギアを選んでくれる、セミオートマチックモデルです。これがとても便利な機構で、速度に応じて最適なギアを選んでくれるだけでなく、信号待ちなどで停まると1速に戻り、再発進の際にいちいち考える必要はありません。走行中も勝手に変速してくれますが、もしタイミングが自分の好みでなかったり、ここで1段落としたい、なんて場合は左手のパドルスイッチでシフトチェンジすることもできるのです。また、最初から自分で変速する「MT」モードも備えています。

都内の渋滞を抜け、横浜横須賀道路で三浦半島エリアに差し掛かった頃には、DCTのありがたみがわかってきました。まず、左手が疲れないこと。一般的なミッション付きのバイクで丸一日、あるいは数日間ツーリングをすると、クラッチ操作によって左手が疲れるのが悩みのタネ、というライダーも多いと思いますが、「NC750X」のDCTモデルならその悩みから解放されます。観光地の渋滞にハマったり、旅先の都市部で通勤渋滞に巻き込まれても、疲労度がまったく違います。金田湾に面した野比海岸から三浦海岸にかけてのシーサイドルートは、車の流れが悪く渋滞することもしばしばですが、今回はクラッチ操作が無いのでそれも気になりません。
DCTはエンストしない、というのもツーリングでは大きなメリットです。筆者(野岸“ねぎ”泰之)は三浦半島に来ると、旅心をくすぐるシーンを求めてつい細い路地や畑の中の道を走りたくなります。そうすると、細い坂の途中や畑のあぜ道でUターンすることもよくあり、大型のMT車では半クラッチがうまく使えずにエンストしてマシンを倒してしまう、なんてリスクが伴います。DCTならそんな心配をせずに済むので、気軽に探索できる範囲がグッと広がるのです。

2021年モデルでは、アクセル制御がライドバイワイヤー(ケーブルではなく電気信号によるもの)になり、新たにライディングモードが採用されました。モードはスタンダード、スポーツ、レインの3つで、走行中でも左手のハンドルスイッチで切り替えることができます。
ツーリングの際は、通常の走りならスタンダードモードにしておけば不満はありません。スポーツモードはワインディングだけでなく、上り坂や高速道路での追い越しなどで「もうちょっと元気よく走りたい」という時にも有効です。
今回のツーリングで意外と便利だな、と思ったのはレインモードです。この日は晴れていましたが、じつは先ほど例に挙げた狭い道でのUターンなど、ジワリとパワーをかけたい時に重宝するのです。
畑の間を縫うように走る細い道に迷い込み、ヌタヌタの泥溜まりの上に突っ込んでしまった際にも、脱出するのにタイヤが空転しないよう優しくパワーをかけられるので、とても助かりました。

そして「NC750X」と言えば、通常では燃料タンクにあたる部分がラゲッジスペースになっているのが特徴です。これが従来モデルよりも1L広げられ、容量が23Lになったのもうれしい進化です。わずかな差ではありますが、愛用のヘルメット、SHOEI「J-Cruise II」を収納するのに以前はカツカツだったところ、少しだけ楽になりました。
このラゲッジスペースはツーリング時にかなり便利です。普段からレインウェアなどを入れておけば急な雨に降られても安心。また、バッグ類を持たずに走り出し、途中で「あ、家族にお土産を買って帰ろう」という場合でも対応してくれます。筆者の場合は「NC750X」でツーリングするたびに「このスペースに何を詰めて帰ろうかな?」と考えるのが楽しみになっています。
気負わずに乗れて“旅力”の高い「NC750X」はモデルチェンジのたびに進化し、ツーリングマシンとしても熟成され、とても優れていると感じます。

しかし、初代から変わっていない、ひとつだけ気になる点があります。それは給油の際にリアシートを開けなければならないところです。シート自体はワンタッチで開くので苦労はありませんが、キャンプツーリングなどでリアシートに荷物を積んでいると、少々面倒です。燃費も良いし、それほど困る場面が多いわけでもないのですが、ここさえ改良されれば、さらにツーリングマシンとしての使い勝手が向上するはず。わがままと知りつつ記しておきます。
Writer: 野岸“ねぎ”泰之(ライター)
30年以上バイク雑誌等に執筆しているフリーライター。ツーリング記事を中心に、近年はWebメディアで新車インプレッションやアイテムレビューも多数執筆。バイクツーリング&アウトドアを楽しむ『HUB倶楽部』運営メンバーの1人。全都道府県をバイクで走破しており、オーストラリア、タイ、中国など海外でのツーリング経験も持つ。バイクはスペックよりも実際の使い勝手や公道での走りが気になるキャンプツーリング好き。