改革を通じて、基本を知る ~2022年型「YZ125」開発陣に聞く、最新2ストローク事情(第3回/全4回)~

ヤマハは2022年型として、2ストロークエンジンを搭載するモトクロス競技車両「YZ125」を17年ぶりにフルモデルチェンジしました。国内2輪メーカー唯一となった最新2ストロークモデルについて、ライターの中村友彦さんが開発陣に話を聞きました(第3回/全4回)。

PWK38キャブレターの導入

 ヤマハの2ストロークモトクロスマシン、2022年型「YZ125」のエンジンの詳細に迫る、当連載は今回で3回目になります(全4回)

2022年型YZ125は、世界中の2ストロークユーザーから絶大な支持を得ているMOTOTASSINARI社のW型リードバルブ、VFORCE4Rを純正部品として採用
2022年型YZ125は、世界中の2ストロークユーザーから絶大な支持を得ているMOTOTASSINARI社のW型リードバルブ、VFORCE4Rを純正部品として採用

 個人的に1986年型「TZR250」を愛用しているものの、モトクロッサーと2ストロークを熟知しているわけではない、素人然とした私(筆者:中村友彦)の質問に答えてくれたのは、プロジェクトリーダーの上村正毅さん、エンジンテスト担当の福岡直樹さん、ボディ実験担当の尾崎友哉さん、ボディの信頼性担当の佐藤祐太さんです。 

──従来のYZ125のキャブレターがミクニTMX38だったのに対して、2022年型はケーヒンPWK38を採用しています。この変更の理由を教えてください。

 福岡さん(以下、敬称略)「YZ250で実績を積んだ機構を転用するためです。YZ250のPWK38キャブレターには、以前からTPS(スロットルポジションセンサー)とソレノイドを用いた電子制御式パワージェットが備わっていて、かなりの好感触を得ていたので、そのフィーリングを新規エンジンの125でも再現しようと。実際に作業を進めていく中で、個人的に最も大きな効果を感じたのは、TPSの採用によって実現できた点火時期マップの3D化です。従来型はエンジン回転数のみで制御する2Dだったのですが、スロットル開度に応じて理想的な点火時期を設定することで、ここまで扱いやすくなるのかと感心しました」

ヤマハ「YZ125」(2022年型)開発陣のみなさん。プロジェクトリーダーの上村正毅さん(上左)、エンジンテスト担当の福岡直樹さん(上右)、ボディ実験担当の尾崎友哉さん(下左)、ボディの信頼性担当の佐藤祐太さん(下右)
ヤマハ「YZ125」(2022年型)開発陣のみなさん。プロジェクトリーダーの上村正毅さん(上左)、エンジンテスト担当の福岡直樹さん(上右)、ボディ実験担当の尾崎友哉さん(下左)、ボディの信頼性担当の佐藤祐太さん(下右)

 尾崎「既存のYZ125と比べると、2022年型はコントロール性が格段に良好になっています。もっともその理由はキャブレターの変更とTPSの採用だけではなく、後方ストレート吸気やMOTOTASSINARI社のVFORCE4R(ブイ・フォース・フォー・アール)、構造を一新したクランクケースなど、いろいろな要素の相乗効果ですが、2022年型のエンジンをベースにして、2D点火マップ+従来型リードバルブとの比較テストを行ってみると、3D点火マップ+VFORCE4Rのほうが、乗り手の操作に対する反応は明らかにリニアでした」

2022年型YZ125の価格(消費税10%込み)は、従来型+11万円となる73万7000円。エンジンが全面新設計という事実を考えれば、高いと言う人はいないだろう。
2022年型YZ125の価格(消費税10%込み)は、従来型+11万円となる73万7000円。エンジンが全面新設計という事実を考えれば、高いと言う人はいないだろう。

 佐藤「PWK38はすでにYZ250で実績を積んだキャブレターですが、2022年型YZ125は従来型よりパワフルになった結果として振動が増えているため、スライドピストンや電子系部品に関しては、入念な耐久テストを行なっています。なおリードバルブのVFORCE4Rは、2022年型YZ125用の専用品ですが、基本的な構造や素材はアフターマーケット用の市販品と同様です。ただし純正部品に採用するにあたって、一部に改良を加えることで、当社の基準はしっかりクリアしています」

GYTRキットから、標準装着に昇格

──新作キャブレターの話を聞いた後ではちょっと言いづらいのですが、気化器に関しては、インジェクションの導入は考えなかったのでしょうか。4ストロークモトクロッサーのYZ450/250Fでは、ヤマハはライバル勢に先駆ける形でインジェクションを導入していますが。

左がミクニTMX38で、右は日立Astemo製ケーヒンPWK38。
左がミクニTMX38で、右は日立Astemo製ケーヒンPWK38。

 上村「もちろん、検討はしています。当社では30年ほど前からロードレースとモトクロスで2ストローク+インジェクションをテストしていますし、船外機では世界初の技術として、2003年に2ストローク+筒内燃料噴射を実現していますからね。ただし、スロットル開度とエンジン回転数が激しく変化するモトクロッサーの場合は、2ストローク特有の排気脈動でシリンダー内に閉じ込められる空気量が頻繁に変化し、その変化に応じて適正な噴射量を決める必要があるので、4ストロークに比べるとシステムが複雑になります。そうすると補器類の増加で重量とコストが大幅に上がってしまうので、今回はあえてキャブレターを選択しました」

──先ほどの尾崎さんと佐藤さんの言葉で出てきましたが、MOTOTASSINARI社のW型カーボン製リードバルブ、VFORCE4Rを純正採用したことは、個人的にはキャブレターの刷新以上に意外でした。実は私も愛車のTZR250に同じ製品を使っているのですが、ヤマハの技術者の視点で見ても、この製品は素晴らしいのでしょうか。

2つのリードバルブはいずれもYZ125の純正。
2つのリードバルブはいずれもYZ125の純正。

 福岡「素晴らしいですね(笑)。当社では以前からYZシリーズのGYTR(GENUINE YAMAHA TECHNOLOGY RACING)キットとしてVFORCEを設定していましたが、2022年型YZ125の開発で改めて、私はこの製品の美点を実感しました。ベンチテストでも実走でも、明確な違いが確認できますからね。既存のYZ125のリードバルブがV字型・6葉だったのに対して、VFORCE4RはW型・8葉という構成で、吸気抵抗の少なさや応答性では、明らかにVFORCE4Rのほうが良好です」

2ストロークの給気は、下から上へ

──2022年型YZ125の試乗会で配布されたプレス用の広報資料を見て、私が“えっ、そうだったのか……”と驚いたのが、給気(吸気)効率の向上を目指して上面の構造を刷新したクランクケースです。

YZ125の吸気方式は、1980年代中盤以降の2ストロークで一般的となったクランクケースリードバルブ式。
YZ125の吸気方式は、1980年代中盤以降の2ストロークで一般的となったクランクケースリードバルブ式。

 4ストロークの技術資料を見る機会が多いせいか、今までの私は、混合気は上から下に流すのが正解だと思っていたのですが、2022年型YZ125の広報資料からは、“下から上へ”という意識を強く感じました。

 上村「クランクケース内で1次圧縮を行う場合、2ストロークの給気はおっしゃる通り、“下から上へ”です。大前提として混合気は、ピストン裏面に向かう形でクランクケース内に入り、下降するピストンによって1次圧縮が行われ、シリンダーの掃気ポートを通って燃焼室へ押し出されるのですが、高回転域では空気の慣性力がありますから、ほとんどの混合気が掃気ポートに直接入ります。このあたりの流れは、YPVSの解説用として、当社が準備した動画を見ていただくのがいいと思いますよ」

YouTube「ヤマハ発動機公式チャンネル」では、YPVS(ヤマハ・パワー・バルブ・システム)の技術解説動画を見ることができる
YouTube「ヤマハ発動機公式チャンネル」では、YPVS(ヤマハ・パワー・バルブ・システム)の技術解説動画を見ることができる

 上村「2022年型YZ125では、吸気口からエアクリーナーに流れる空気の勢いを最大限に活用する、ストレート吸気の美点をさらに伸ばすべく、従来型に対してクランクケースのシリンダーとの合い面を8mm高くして、吸気ポートを4度寝かせています。理想を言うなら、シリンダーの垂線と吸気ポートの角度はもっと広くしたいのですが、フレームとの兼ね合いを考えて現状の構成を選定しました」

※ ※ ※

 次回(最終回:全4回)は、ヤマハの最新2ストロークエンジンの主要部品が重くなった理由などについて、さらに詳しく聞いていきます(つづく)。

【画像】ヤマハの最新2ストローク事情を見る(10枚)

画像ギャラリー

Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

編集部からのおすすめ

水上バイクは意外と身近な乗りもの! オートバイ乗りに知ってほしい基礎知識|葉月美優のSea-Dooエンジョイライフ 出会い編【PR】

水上バイクは意外と身近な乗りもの! オートバイ乗りに知ってほしい基礎知識|葉月美優のSea-Dooエンジョイライフ 出会い編【PR】

最新記事