エンジンの主要部品が重くなった理由 ~2022年型「YZ125」開発陣に聞く、最新2ストローク事情(最終回/全4回)~

ヤマハは2022年型として、2ストロークエンジンを搭載するモトクロス競技車両「YZ125」を17年ぶりにフルモデルチェンジしました。国内2輪メーカー唯一となった最新2ストロークモデルについて、ライターの中村友彦さんが開発陣に話を聞きました(最終回/全4回)。

ポート形状の変更とYPVS

 ヤマハ「YZ125」(2022年型)のエンジンの詳細に迫る、当連載は今回で最終回です(全4回)。2ストロークとモトクロッサーに精通していない私(筆者:中村友彦)の稚拙な質問に対して、懇切丁寧に答えてくれたのは、プロジェクトリーダーの上村正毅さん、エンジンテスト担当の福岡直樹さん、ボディ実験担当の尾崎友哉さん、ボディの信頼性担当の佐藤祐太さんです。

ヤマハ「YZ125」のピストン。左の2021年型を基準に考えると、右の2022年型はポートの刷新に合わせてスカート形状を変更し、熱容量と耐久性を考慮した結果として重量がやや増加。製法が鋳造でリングが1本であることは両ピストンに共通
ヤマハ「YZ125」のピストン。左の2021年型を基準に考えると、右の2022年型はポートの刷新に合わせてスカート形状を変更し、熱容量と耐久性を考慮した結果として重量がやや増加。製法が鋳造でリングが1本であることは両ピストンに共通

──シリンダー内壁に開けられたポートは、2ストロークエンジンにとって非常に重要だと思います。とはいえ、2022年型YZ125のプレス向け技術説明資料に記された2021型との差異を見ても、私には何が違うのかがわかりませんでした。この点についての説明をお願いします。

 福岡さん(以下、敬称略)「2022年型のポートの特徴は、排気ポート中央に備わる、柱の左右上端の“角R(すみアール)”を小さくしたことと、第3掃気ポートを分割式から一体式に変更したことです。

 まず排気ポートは、従来型ではピストンリングのひっかかりを考慮して、柱の左右上端を緩やかなRにしていたのですが、ポート周辺の面取りとラッピングをより丁寧に手作業で行うことで、角Rの小さい形状が実現できました。

シリンダー内壁の排気ポートを見る。T型であることは両年式に共通だが、中央に備わる柱の上端左右をじっくり観察すると、左の2021年型よりも、右の2022年型のほうが尖がっている=面積が広い
シリンダー内壁の排気ポートを見る。T型であることは両年式に共通だが、中央に備わる柱の上端左右をじっくり観察すると、左の2021年型よりも、右の2022年型のほうが尖がっている=面積が広い

 一方の第3掃気ポートは、従来はピストンリングの回り止め用の通り道が存在したのですが、こちらも面取りとラッピングの見直しで、通り道を廃止しています。いずれも目的は面積の拡大で、その言葉からは高回転指向というイメージを持つ人がいるかもしれませんが、2022年型YZ125はあらゆる領域で扱いやすい特性なので、実際に乗って高回転指向と感じることはないと思いますよ」

排気ポートの反対側に位置する第3掃気ポートを見る。右の2022年型は、ピストンリングの回り止め用の通り道を廃止することで、左の2021年型より面積を大幅に拡大している
排気ポートの反対側に位置する第3掃気ポートを見る。右の2022年型は、ピストンリングの回り止め用の通り道を廃止することで、左の2021年型より面積を大幅に拡大している

──皆さんにとっては何を今さらの話だと思いますが、YZシリーズはいつ頃から中央に柱を備えるT型の排気ポート、そしてスライド型のYPVS(YAMAHA POWER VALVE SYSTEM:エンジン回転数に応じて排気タイミングを変更するデバイス)を採用したのでしょうか? 1980年代のTZR250シリーズが基準になっている私の頭の中では、ヤマハの2ストロークは、排気ポートはメイン+補助×2、YPVSは鼓型、というイメージが強いのですが。

ヤマハが製作したYPVSと排気ポートの図版。(1)原点の鼓型、(2)1970年代末からYZR500で導入が始まったスライド型、(3)1980年代中盤以降のレーサーや1988年型以降のTZR250などで定番になった、排気ポート=メイン+補助×2/YPVS=鼓型、(4)1990年代半ばからYZシリーズが採用したTポート/スライド型×2
ヤマハが製作したYPVSと排気ポートの図版。(1)原点の鼓型、(2)1970年代末からYZR500で導入が始まったスライド型、(3)1980年代中盤以降のレーサーや1988年型以降のTZR250などで定番になった、排気ポート=メイン+補助×2/YPVS=鼓型、(4)1990年代半ばからYZシリーズが採用したTポート/スライド型×2

 上村「YZシリーズがT型ポートとスライド式YPVSを採用したのは、1990年代中盤からです。ただしYPVSに関しては、当社では世界GP500用のファクトリーレーサーで鼓型とスライド型を併用していた時期がありますし、市販レーサーのTZは1980年代後半からスライド式になりました。なお、トリプルYPVSを導入した1994年型以降のTZR250Rは、メイン用は鼓型、補助用はスライド型、という構成です」

リアフレームを専用設計

──2022年型YZ125のエンジンパーツで意外だったのは、ピストン、ピストピン、コンロッド、クランクシャフト、フライホイールといった主要部品が、いずれも重くなっていることです。素人的な考えですが、このエンジンでは軽量化をあまり意識しなかったのでしょうか。

上が2021年型、下が2022年型のコンロッド。大端から小端の距離が8mm伸びたことで、シリンダー内壁の前後にかかる側圧は減少
上が2021年型、下が2022年型のコンロッド。大端から小端の距離が8mm伸びたことで、シリンダー内壁の前後にかかる側圧は減少

 佐藤「もちろん、できるだけ軽くしたいという意識は持っていますが、耐久性を確保するためには、ある程度の重量増は止むを得ないことがあります。ただし、エンジンは従来型+約0.6kgとなりましたが、他の部品の軽量化によって、2022年型の車体重量は2021年型とほぼ同等に収まっています。

 コンロッドが重くなったのは、クランクケースの変更に合わせて大端と小端のピッチを8mm長くしたためですが、この変更はピストンのサイドスラスト低減に貢献しています。なお従来型より高くなった燃焼圧力に対応するため、コンロッドの大端はベアリングと潤滑用の切り欠きの形状を見直しています」

クランクウェブとフライホイールは重量が増加。とはいえ実際の走行中に、重さの弊害を感じることは一切ないそうだ
クランクウェブとフライホイールは重量が増加。とはいえ実際の走行中に、重さの弊害を感じることは一切ないそうだ

 福岡「クランクシャフトとフライホイールが重くなった背景には、重量が増えたピストンとのバランスを取ることに加えて、扱いやすさの向上という理由もあります。イメージとしては、性能向上に伴う回転上昇のスピードを、クランクシャフトとフライホイールの慣性マスで調整した……という感じでしょうか」

 尾崎「2022年型YZ125は、ギャップに弾かれたり後輪が滑ったりした後にアクセルを開けても、パワーが逃げる、路面に食われるといった感触がありません。この特性が実現できた理由のひとつが、従来型より慣性マスを増やしたクランクシャフトとフライホイールで、トラクションのいい加速と向上したパワーを感じやすいエンジン特性になっています」

──ポートと並んで2ストロークの要と言われているチャンバーには、どんな変化があったのでしょうか。

左が2021年型、右が2022年型のシリンダー。この写真で判別できる違いは、排気の出口となるチャンバーの取り付け部くらい
左が2021年型、右が2022年型のシリンダー。この写真で判別できる違いは、排気の出口となるチャンバーの取り付け部くらい

 上村「基本的な形状は2021年型から大きく変わっていません。ただし、エンジン側に逃げる熱を最小限に減らして、排気エネルギーをできるだけ有効に使いたいので、シリンダーとの勘合部の構造を変更しました」

 佐藤「耐久性という視点で見ると、チャンバーはサイレンサーの手前でギュッと絞っている部分の負荷が強くなったので、溶接を追加して強度を高めています。

従来型より全長が50mm短縮されたサイレンサー
従来型より全長が50mm短縮されたサイレンサー

 また、従来型のサイレンサーとリアフレームはYZ250と共通でしたが、排気音量に余裕があったので、2022年型YZ125はサイレンサーを50mm短くしました。もっとも、既存のリアフレームと新作のサイレンサーは重心バランスが悪かったので、取り付け位置が最適になるように、2022年型YZ125ではリアフレームを専用設計しています」

 尾崎「細かい部分ですが、2022年型YZ125はシフトタッチも良好になっています。バーシフトフォークガイド端部にスプリングを追加したりシフトシャフトをウエストさせたりと、細かいチューニングをすることで、従来型より確実で気持ちいいギアチェンジができるようになりました」

プロジェクトリーダーの上村正毅さん(上左)、エンジンテスト担当の福岡直樹さん(上右)、ボディ実験担当の尾崎友哉さん(下左)、ボディの信頼性担当の佐藤祐太さん(下右)
プロジェクトリーダーの上村正毅さん(上左)、エンジンテスト担当の福岡直樹さん(上右)、ボディ実験担当の尾崎友哉さん(下左)、ボディの信頼性担当の佐藤祐太さん(下右)

 佐藤「すでに僕は2022年型YZ125を購入して、プライベートで何度も走りに出かけて楽しんでいます。クラスとしては4ストローク250ccと同じでも、2ストローク125ccのほうが自分の意思で操っている感覚が強く、勉強になることが多い気がしますね」

 尾崎「いろいろな意味で繊細で、すべてのパーツが密接に関連しているので、4ストローク以上にバランスが重要……というのが、初めて2ストロークエンジンの開発に携わった私の感想です。開発中は若いライダーを想定していましたが、2022年型YZ125の乗りやすさと面白さは、年齢や技量など関係なく、どんな人が乗っても実感していただけると思いますよ」

 福岡「少し前まで私は別の部署に所属していたのですが、新しいYZ125の話を聞いて、志願してYZグループに移籍しました。だからこのモデルには、既存のYZ125を所有していたライダーとしての自分が、“こうだったらいいな”と感じていたことを、すべて盛り込んだつもりです。いずれにしても、このモデルの開発は私にとって非常にやりがいのある仕事で、プロジェクトに関われたことに誇りを感じています。既存のYZ125ユーザーが2022年型に乗り換えることで、タイムや順位という面でレベルアップしていく姿を楽しみにしています」

 上村「基本的にYZ125は、若きモトクロスライダーのライディングテクニック向上を意識したモデルで、当社の位置づけとしては、エントリーモデルのYZ65から頂点のYZ450Fにステップアップしていく過程で体験していただきたい車両です。ただしそれ以前の話として、このバイクに乗られた方は、2ストローク特有の爽快なフィーリングにワクワクするんですよ(笑)。

感動創造企業という基本理念

──さて、最後にお聞きしたいのは、ヤマハにとって17年ぶりとなる、2ストローク125cc単気筒エンジンを開発しての感想です。何となくで構いませんので、読者の皆様へのメッセージも意識して、シメの言葉をお願いします。

17年ぶりにフルモデルチェンジとなった2ストロークモトクロッサー、ヤマハ「YZ125」(2022年型)。エンジンは全面新設計、価格(消費税10%込み)は73万7000円
17年ぶりにフルモデルチェンジとなった2ストロークモトクロッサー、ヤマハ「YZ125」(2022年型)。エンジンは全面新設計、価格(消費税10%込み)は73万7000円

 言ってみればYZシリーズは、“感動創造企業”という当社の基本理念を具現化した車両で、我々としてはできるだけ多くのライダーに、この感動を味わってほしいと思っています」

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Writer: 中村友彦

二輪専門誌『バイカーズステーション』(1996年から2003年)に在籍し、以後はフリーランスとして活動中。年式や国籍、排気量を問わず、ありとあらゆるバイクが興味の対象で、メカいじりやレースも大好き。バイク関連で最も好きなことはツーリングで、どんなに仕事が忙しくても月に1度以上は必ず、愛車を駆ってロングランに出かけている。

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